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2026年度第2回理科大サイエンス講座 「建築の美を、計算する ~力学と数学はデザインツール~」開催報告

 東京理科大学科学教育連携センター理数教育研究部門では、高校生・中学生を対象に、第一線で活躍する研究者が研究内容や自身の歩みを分かりやすく紹介する公開講座を実施しています。本講座は2018年度に開始した「坊っちゃん講座」を前身とし、2026年度から「理科大サイエンス講座」として新たにスタートしました。中学生・高校生の学習意欲や進路選択への関心を高めるとともに、探究活動のヒントを提供することを目的としています。

 

 2026年度第2回となる今回は、2026年9月12日(土)に神楽坂キャンパスで開催し、東京理科大学工学部建築学科の伊藤拓海教授を講師に迎え、「建築の美を、計算する ~力学と数学はデザインツール~」をテーマにご講演いただきました。

 伊藤先生は建築構造・材料工学を専門とし、建築物や橋梁などの構造物が地震や豪雨などの自然災害で受ける力や変形、破壊の仕組みについて、数学やコンピュータを活用した研究を進められています。また、壊れにくく長持ちする構造の実現に取り組むとともに、構造が生み出す美しさについても探求されています。

 講演の冒頭では、先生ご自身のこれまでの歩みについてご紹介いただきました。幼少期から珠算、書道、水泳野球、籠球に親しみ、近年は水墨画や登山にも取り組まれるなど、多彩な趣味をお持ちであることや、本学初のベンチャー企業「株式会社PreArch」の取締役を務められていることなど、研究以外の活動についてもお話しいただきました。

 続いて、建築学についてご説明いただきました。先生は、建築は「用(機能)・強(強さ)・美(美しさ)」の三要素が一体となって成り立つものであり、一つの建築物を完成させるために多くの専門家が関わっていることを紹介されました。また、建築とは単に建物をつくることではなく、人々が暮らす都市や空間そのものをデザインする学問であり、「人の生活を設計すること」であると説明されました。

 さらに、建築におけるデザインと構造の関係について、日本を代表する建築作品である国立代々木競技場を例にお話がありました。意匠設計を担当した丹下健三と、構造設計を支えた坪井善勝が互いの専門性を深く理解しながら協働したことを例に、優れた建築にはデザインと構造の両立が不可欠であることが紹介されました。良い建築を実現するためには、美しい空間を思い描き理解したうえで、それを実現するための構造を考えることが重要であることを学びました。

 また、建物が壊れる仕組みに着目したお話がありました。災害の多い日本において、いかに壊れにくい建物をつくるかを考える上で重要なのは、感覚的なイメージと数学・力学の知識を結び付けることであると説明されました。さまざまな建築物を例に、建物にどのような力が作用しているのかを数式で表現しながら解説いただき、現在ではコンピュータを活用することで複雑な構造も解析できるようになっていることを学びました。

 一見すると不安定に見える曲線的な建築物についても、力の流れを数学的に表現することで、その安全性や合理性を説明できることが紹介されました。建築の美しさと安全性は決して相反するものではなく、数学や力学によって両立できることが印象的でした。

 講演の最後には、高校で学ぶ数学や物理が建築を支える基礎となっていることが示されました。身近な建築物の背後には数学や物理の考え方が活用されており、現在学んでいることが将来につながっているというメッセージとともに講演が締めくくられました。

 

 質疑応答では、多くの参加者から質問が寄せられました。

 まず、高校2年生の参加者から、大学案内に記載されている伊藤先生の研究内容について質問がありました。先生は、災害時など電気が供給されない状況において、建物の損傷を検知できるセンサーの研究に取り組んでいることを紹介されました。また、自身の専門分野に加え、先生がやや苦手とされる電気工学については、他の研究者と協力しながら研究を進めていることについてもお話しいただきました。

 続いて、同じく高校2年生の参加者から、「なぜ鉄道橋にはトラス橋が多く採用されているのか」という質問がありました。これに対し先生は、橋は風による横方向の力を受けるため、風を受け流しながら軽量化と安定性を両立できる構造としてトラス橋が優れていることを説明されました。

 また、シドニー・オペラハウスの屋根が円の断面で構成されている理由についての質問もありました。先生は、これは構造的な安定性だけでなく、同じ半径の部材を使用できるため施工や設計上の利点があることを紹介されました。

 さらに、参加者の保護者からは建築材料に関する質問が寄せられました。構造計算の結果を実現するためにどのような材料を選定するのかとの問いに対し、先生は、材料の強度には限界があるため、断面形状を工夫したり、新たな材料を開発したりすることで求められる性能を実現していると説明されました。

 質疑応答を通じて、建築という一つの分野の中にも、数学、力学、情報学、材料工学など、さまざまな学問領域が関わっていることを参加者の皆さんに感じていただけたのではないかと思います。

 

 講演後のアンケートでは、建築物の構造やデザインの背景に数学や物理学が活用されていることへの理解が深まり、「今後は建築物を構造の視点から見てみたい」「実際に紹介された建築物を訪れてみたい」といった感想が寄せられました。また、「大学の講義の雰囲気を知ることができた」「数学が社会でどのように活用されているか実感できた」などの声も見られました。

 さらに、「もっと学んでみたいと思った」「微分積分を頑張って勉強したい」といった前向きな感想が多く寄せられ、参加者の知的好奇心を刺激し、学習意欲を高める機会となったことがうかがえました。

 本講座が、参加者の皆さまにとって建築や科学への関心を深め、今後の学習や進路選択、探究活動の一助となれば幸いです。

 

<講演の様子>