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2024年度第8回坊っちゃん講座「西洋絵画に込められたメッセージを読む」開催報告

10月26日(土)に2024年度第8回坊っちゃん講座をオンラインで開催し、120名を超える参加者がありました。

 

本講座は最先端の研究や応用研究において世界をリードしている研究者が研究の面白さを高校生、中学生および大学生に伝え、勉学意欲の向上と進路選択に資するために開講しています。

 

今回は、教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部 竹本 芽依 助教に講演いただきました。はじめに「自己紹介、本講座の趣旨・問題意識」について以下のお話しがありました。

・美術の世界には、絵画(作品)を創り出すアーティストだけでなく、生み出された作品について考察を深める者がいる。美術史研究者はどのように作品と向き合っているのか? 絵画を観る面白さはどこにあるのか?

・芸術に携わる職業、あるいは人文社会分野の研究者という進路選択における、一つのリファレンスとして、美術史研究者を目指すに至った動機やこれまでの歩みを紹介する。

 

次に、「東京理科大学における教養教育研究院、教養科目の位置付け」について説明があり、その中で、大学において教養科目は必要なのか? 専門科目だけで良いのでは?との問いについて以下の見解を示されました。

・時代的・地理的に隔たりのある文化・社会と向き合うことは、多角的な視点を身につけ、発想力を高めることに繋がる。

・専門分野以外の学術領域と出会うことは、常に自分がいる世界を相対化し、広い視野で物事を捉えることに繋がる。

 

次に、「研究分野(西洋美術史)の紹介、これまでの歩み」についてお話しがありました。

研究分野(西洋美術史)の紹介として、ミケランジェロの『ダヴィデ像』を例に、いかなる状況・心象が表現されているか、ドナテッロやアルテミジア・ジェンティレスキの同主題作品との比較を行い、旧約聖書 サムエル記上 17:23-51の「ダヴィデは川岸から滑らかな石を五つ選び、身につけていた羊飼いの投石袋に入れ、石投げ紐を手にして、あのペリシテ人に向かっていった。[・・・]ダヴィデは石投げ紐と石一つでこのペリシテ人に勝ち、彼を撃ち殺した。ダヴィデの手には剣もなかった。」を引用し、ダヴィデ像に込められた “勝利を予感させる英雄ダヴィデ-いざ、戦いへ” の状況や心象が語られました

 

これまでの歩みでは、竹本先生が研究者になるまでの道筋について、自分は何がやりたいかを考え、実際に行動を起こし、考え続け、問い続けてきました。東京藝術大学(学部から博士課程まで)での学生生活、フランス(リヨン第2大学)への留学、三菱一号館美術館や国立西洋美術館での学芸補佐、社会人を対象としたカルチャースクール講師など目標に向かい邁進し続け現在に至っています。

その過程で、「運や縁に左右されるもの」に軸足を置かず、いつか来るチャンスのために、自分自身ができることを進め続ける大切さを伝えました。

 

最後に、「西洋美術の世界-絵画に込められたメッセージを読む」では、3名の画家の作品を取り上げました。ルーベンスの『マリー・ド・メディシスとアンリ4世のリヨンでの対面』では、アトリビュート(描かれた人物を特定するための手がかりとなる持ち物)についてお話しがあり、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの『大工の聖ヨセフ』では、“暗闇の中に浮かび上がる蝋燭の光が照らすものは何か?” “交錯する親子の視線-イエスの将来に立ちはだかる受難を案ずる” “神聖な物語を、庶民の日常の一場面のように描く” などの視点から解釈を述べられ、オディロン・ルドンの『二輪馬車』では、黒の時代から豊かな色彩の領域へと変化する過程、ルドンの苦悩のあとの喜びについてお話しがあり、西洋絵画に込められた様々なメッセージについて解説し、講演を締め括りました。

 

ご講演後、参加者から届いた多くの質問に竹本先生が1つ1つ丁寧に回答してくださいました。

 

参加者からは、「美術作品そのものだけではなく、そのモチーフや作品の背景、さらに作者の心情などに注目して鑑賞することの奥深さを、この講座を通して学ぶことができました。また美術史とは何か、そしてその研究の実情も知ることができ、とても有意義な時間を持つことができました。」「講演そのものも大変興味深かったのですが、質疑応答で、講師の先生自身の人柄や専門性に裏打ちされた分かり易い説明とその態度に大変感銘を受けました。今後、講師の先生の講義又は講演を直接聴講できればと願っています。」「文系の先生の話は、新鮮な感じがありました。今日視聴した生徒にとっても、進路選択の大きな示唆を与えたものと思います。来週、生徒の感想を聞くのが楽しみです。今日の講義は、授業で理科の楽しさと理科の大切さを、自分が生徒にしっかりと伝えていると言えるのか? 反省させられた時間でした。来週から、また、高校生相手に頑張ります。」などの感想が寄せられました。

 

講演の様子