2024年度第3回坊っちゃん講座「我動くゆえに我あり ~健康から火事場まで幅広くつなぐ行動生理学~」開催報告
6月8日(土)に2024年度第3回坊っちゃん講座をオンラインで開催し、118名の参加者がありました。
本講座は最先端の研究や応用研究において世界をリードしている研究者が研究の面白さを高校生、中学生および大学生に伝え、勉学意欲の向上と進路選択に資するために開講しています。
今回は、本学 創域理工学研究科 国際火災科学専攻 柳田信也 教授に講演いただきました。先生の本務は、教養教育研究院 野田キャンパス教養部であり、体育局ソフトボール部を率いて全日本大学選手権に出場するなど多方面に活躍されています。最初にご自身のキャリア形成について、東京理科大学に入職するきっかけとなった武田健先生や丸山克俊先生の話から、人との縁や出会いの大切さを話されました。次に、「学校教育法第83条:大学の目的」を紹介し、大学は広く知識を授けるとともに、道徳的能力を展開させることを目的としていることを伝えました。
また、講演当日は、野田キャンパスにおいて研究室対抗スポーツフェスティバルが開催されており、運営や選手として出場する合間を縫って講演をしていただきました。
1999年に発表されたVan Praagの論文がターニングポイントになり、運動と脳機能の研究が爆発的に進みました。その時、柳田先生が疑問を持ち注目したのが、運動の効果は自発運動と強制運動で異なるのではないかという点です。先生自身がずっとスポーツをやってきましたが、トレーニングが大嫌いであったことが発想の始まりでした。そこで、ラットの脳を摘出して、頭の先から首まで50㎛の比較的薄めのスライスを何百枚も作り、それを先から並べ、脳のどの場所が活動しているかを免疫組織化学染色法によりくまなく調べました。
そこから分かったことは、自発運動と強制運動では脳機能に対する影響が異なる。「運動=良いこと」からの脱却ができるのではないかと考え、量依存的ではない運動の効果を調べたところ、高活動群ではドーパミンの量が増加し、低活動群ではセロトニンの量が増加しました。また、オープンフィールドテスト(不安様行動)の結果、低活動ラットにおける顕著な不安様行動の減少が見られ、セロトニン量の結果とも一致しました。そこで、このことから心理的安定をもたらす至適な(適度な)自発運動量が存在する可能性があることが分かりました。
続いて、厚生労働省が国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針「健康日本21」を発表し、人が体を動かすことを総じて身体活動とする。すなわち、意図的・計画的に行われる活動(運動)だけではなく、日常生活を営む上で必要な活動(生活活動)を身体活動としたことの説明がありました。
それを受けて、柳田先生の研究は運動の再考と新たなモデルの創成に進みました。「身体活動=運動+生活活動」を掲げ、東京理科大学の他の専門分野の先生方と共同研究を行った結果、身体活動の末梢器官への効果としてヒラメ筋の重量の増加が見られ、運動とは効果を異にする身体活動の生体応答がある可能性について言及しました。
創域理工学研究科 国際火災科学専攻における研究として、消防隊員への熱中症に関するアンケートから、消防隊員は高い確率で熱中症(疑い)を経験しており、早い段階での効果的な対策や予防が望まれます。そこで、東京消防庁の職員にご協力いただき実験を行いました。
〇実験条件
・運動室環境(40℃(高温)湿度70%、25℃(常温)湿度70% ※休息室:25℃ 湿度70%)
・摂取飲料種類(アイススラリー(1℃)*、水 ※頻回摂取(100g×5回,3分毎)
*アイススラリー:水と微細な氷が混合した飲料、水成分のみで作成、温度1℃
〇測定項目
・直腸温度、心拍数、耳内温度、体表面温度(胸/脚/腕)、その他(衣服内温湿度、血中乳酸値、発汗量など)
その結果、着装(執務服、防火衣、毒刺)により身体負荷は変化しますが、アイススラリー摂取には一定の効果が期待されることが分かりました。(摂取量やタイミングについて要検討)
また、熱中症以外にもトータルとして健康管理ができないかを考え、ウエアラブルデバイスを着けていただき、心拍数、体温、自律神経の働きを検出し、必要なトレーニングや想定されるリスクをフィードバック、唾液のサンプルを取ってストレスホルモンの分泌量を分析してメンタルの状態を調べる等も行っているとの話がありました。
最後に、運動生理学の権威、猪飼道夫先生のP=C∫E(M)との回帰式を引用して、P(パフォーマンス)、C(サイバネティクス(技術))、E(エネルギー(体力))、E(モチベーション)のうち、モチベーションの大切さを説き講演を締めくくりました。
講演後、多くの質問に柳田先生が1つ1つ丁寧に回答し、質疑応答終了後、再び研究室対抗スポーツフェスティバルに向かいました。
参加者からは、「運動は体に良いと表面的に知っていましたが、“自発的で適度な運動”が更に効果的なことが分かり、生活面で大変参考になりました。」「身体活動を継続することで、セロトニンなどの不安を少なくする効果のあるタンパク質が増加し、自律神経も同時に整理できる効果があることを知り、病気の予防や生活習慣を見直すきっかけになった。」「講師のキャラクターが素晴らしかった。」等の感想が寄せられました。
講演の様子