2024年度第2回坊っちゃん講座「太陽光のエネルギーで水素を作り出す」開催報告
5月18日(土)に2024年度第2回坊っちゃん講座をオンラインで開催し、120名を超える参加者がありました。
本講座は最先端の研究や応用研究において世界をリードしている研究者が研究の面白さを高校生、中学生および大学生に伝え、勉学意欲の向上と進路選択に資するために開講しています。
今回は、本学工学部工業化学科の卒業生、東京理科大学大村賞受賞者、理窓博士会第17回学術奨励賞受賞者の長川遥輝先生に講演いただきました。先生は現在、茨城大学理工学研究科工学野物質科学工学領域の助教をされています。今回の講演では、前半にご自身の研究の話をされ、後半は中学高校生向けに研究者へのキャリアパスについて話されました。
最初にエネルギー・環境問題を考える上で省エネルギー・省資源は重要な観点ではありますが、技術の発展と相反することもあり根本的な解決とはならないと考え、長川研究室では持続可能なプロセスが必要でありエネルギー製造・資源循環を目的とした光触媒を用いた水分解に着目し研究を行っています。
水の電気分解と水の光分解(光触媒)の比較から、水の電気分解では電気エネルギーを消費し、光触媒による水分解では太陽光のエネルギーを使用しているとの説明がありました。
次に、光触媒を用いた水素製造では、“水分解反応”の説明と共に、長川研究室が最近力を入れて研究しているのが“光改質反応”であり、廃棄物の酸化分解・変換についての説明がありました。光改質反応は、太陽光・光触媒・反応溶液のみで駆動し、廃棄物を焼却せずに家庭で処理しアルコール等に変換できます。そこで得られる水素はクリーンなエネルギー源となります。その成果を、いくつかの材料・反応システムで論文発表し、既に20報を超える総説論文(Nature系列含む)で引用され、近年研究が加速しています。
最後に実用化への課題として、基準廃棄物(廃棄物の基準、前処理の検討)、光改質反応(反応の効率、反応の選択性、温和な反応条件)、反応生成物(反応機構の解明、生成物の分離・精製、反応残渣の処理、有害物質の除去)のお話をされ、あらためて長川研究室では、持続可能な光改質反応を使ってエネルギー製造・資源循環を目的としていることを参加者に伝えました。
研究者へのキャリアパスについて、大学教員の仕事を円グラフで表し、「講義・採点」「講義の準備」「入試業務」「会議」「考える・ゼミ」「実験」「論文執筆」「学会発表」「研究費獲得」等、様々な業務、裏方の仕事をこなしていることの紹介がありました。大学教員の良いところとして、自分の仕事(論文)が一生残ること、自分の興味が仕事になること等をあげました。また、ご自身の小学生時代からを振り返り、北海道の小・中学校で初の太陽光発電システムを校舎屋上に設置した学校に通っていたことから環境問題への意識が身についたことやニュースで見た水で動く自動車を調べると光触媒に辿り着き興味を持ったこと、高校時代の部活の顧問と進路に係る会話をしていく中で東京理科大学に入学したことのお話がありました。
また、修士課程での奨学金免除、博士課程支援制度、学内外からの表彰、ポスドクやアカデミアでの教員公募、研究費の獲得等、全てにおいて業績(論文の数と質)が求められることや、論文に関するエピソードとして、長川先生の水分解反応に活性を持つ新規光触媒の論文が、ムンクの「叫び」の分析・劣化機構に関する論文で引用され、思わぬ発展をしたことの紹介もありました。
また、研究者に必要な能力をスキル面と性格面で紹介され、高い専門性と総合力が必要であることを伝えました。最後に中学高校生へ、ルイ・パスツールの「Chance favors the prepared mind(偶然(幸運)は用意された心にのみ宿る)」の言葉を引用して、「今の環境で努力できることに打ち込んでください。何か行動していれば、その経験が後から役に立ちます」とお話され講演を締めくくりました。
講演後、多くの質問に長川先生が1つ1つ丁寧に回答してくださいました。
参加者からは、「酸化チタンから始まった『光触媒反応』、電気エネルギーを介さずに太陽光による光化学反応で水素を取り出すという、画期的な研究の最前線が盛んに行われていることを知り勉強になった。」「現在、中学3年生ですが中学校で習ったばかりのイオンや水分解の説明がありとても楽しんで講義を受けられました。また、今習っていることが大学や、専門的な分野の内容にも関わってくるのだと実感し、これからの勉強をしっかりと頑張っていきたいと思いました。」「研究者になるという選択肢を持つ高校生にとって、わかりやすく丁寧な説明であった。また、受講生である高校生が、自分事として高校・大学卒業後の姿を想像しやすかった。」等の感想が寄せられました。
講演の様子