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2024年度第12回坊っちゃん講座「電気代が0円になった日~我が家の場合と未来の電力システム 」開催報告

3月15日(土)に2024年度第12回坊っちゃん講座を開催し、130名を超える参加者がありました。

 

本講座は最先端の研究や応用研究において世界をリードしている研究者が研究の面白さを高校生、中学生および大学生に伝え、勉学意欲の向上と進路選択に資するために開講しています。

 

今回は、工学部 電気工学科  山口 順之 教授に講演いただきました。

 

はじめに、山口先生の家を例に電気代が0円になるかのお話がありました。

 ●我が家の場合=戸建て一軒屋,5人家族

   →電力を使う量に関係します

 ●太陽光発電(PV)を屋根につける:定格出力 3.01 kW

 ●自家用車:12年乗ったので買い替え→電気自動車(EV)

 ●V2H*をつける  *V2HとはEV等のバッテリーにためた電気を家庭内で使うための仕組み

  〇電気を使う(消費する)

   ・電力会社から電気を購入し消費(買電(かいでん))

   ・PVの電気を消費

   ・EVの電気を消費

  〇電気を貯める(充電,蓄電)

   ・PVの電気をEVに充電 

  〇電気を売る(売電(うりでん))

   ・PVの電気を買電

   ・(EVの電気は買電しない)

 ●日本国民+東京都民:各種補助金

 

続いて、2023年(月別・日別・時間別)の電力消費データを説明し、5月24日で電気代は0円になるかのお話がありました。

 ●支出(出ていくお金):約1151円/日  ※2023年5月24日 買電量 6.167kWh

  〇電気料金: 246.68 円/日

   ・40.0円/kWh×6.167 kWh ≒ 246.68 円

  〇PV, V2H, EV費用:904円/日

   ・PV+V2H費用:約180万円

   ・EV費用:普通の車+約150万円

   ・約330万円÷10年÷356日≒ 904円

 ●収入(入ってくるお金):約(298+補助金)円/日  ※2023年5月24日 売電量 17.541kWh

  〇売電収入

   ・17.0円/kWh×17.541 kWh ≒ 298 円

  〇東京都の補助金(毎年制度が変わるので詳しい数字は出しません)

   ・EV,PV,V2H設置費用への補助→補助金が約852円/日必要

         (一般的にブレーク・イーブン・コストBECと言います)

 

結局、補助金次第ではないか? そこで、電気代だけで比較してよいか? との考察がありました。

 ●PV+EV+V2Hあり:約0円          ●PV+EV+V2Hなし:約385円

  〇電気代:247円/日              〇電気代:385.2円/日

  〇PV, V2H, EV費用:904円/日         〇PV, V2H, EV費用:0円/日

  〇売電収入:298円/日             〇売電収入:0円/日

  〇補助金:852円/日(BEC)          〇補助金:0円/日

  〇ガソリン代:0円/日(仮)          〇ガソリン代:?円/日

  ※2023年5月24日 買電量 6.167kWh        ※2023年5月24日 消費電力量 9.63kWh

 

すなわち、PV発電が家庭の消費電力を相殺しており、EVがガソリン消費を相殺しています。

 

次に、可変費と固定費の説明を行い、『モデルプラント方式の発電コスト*』の2023年と2040年の試算の結果概要(暫定)から太陽光発電の設備利用率(設備を利用している量の割合)を比較し、数値が同じことに着目しました。(本当に同じなのか?)

 

*出所)資源エネルギー庁:発電コスト検証に関するとりまとめ(案),第5回 発電コスト検証ワーキンググループ,資料2,2024年12月23日

 

山口研究室では、システム統合コスト(発電コスト=電源+電力システム全体+外部影響)を独自開発した計算プログラムにより算出し分析を行っています。

 

 Githubで「ucgrb」を検索

 ※お問合せ:東京理科大学 工学部電気工学科 山口 順之 mailto:n-yama@rs.tus.ac.jp

 

次に卸電力市場の紹介があり、一般社団法人 日本卸電力取引所https://www.jepx.jp/のサイトを使い、電力取引を体験しました。

 

そして、私たちにできることとして主に以下を伝えました。

・電力会社・エネルギー会社を選ぶ(小売電気事業者数は727事業者(令和3年6月30日現在))
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/retailers_list/

・CO2排出量が少なくできる専門家になる

・できるだけ低コストな方法を選ぶ

 

最後にまとめと展望として、以下のメッセージを送り講演を締めくくりました。

・電気代0円はまだ難しいが可能性はある

・脱炭素社会の実現にどのくらいコストを掛けられるか

・発電コストは発電機の運用に依存する

・システム統合コストをどのように盛り込むか

・変化する電力価格は電力市場で決める

・工学と経済学が一体にならないと適切な仕組みは出来上がらない

・本当に電力供給の脱炭素化を目指すなら電力システムの研究が大切

・未来は私たち(特に中高生の皆さん)が掴み取るもの

 

講演後、参加者からの質問に山口先生が丁寧に回答してくださいました。

 

参加者からは、「『電気代が0円になる日』について、そのような制度があるのかと思っていましたが、自身の努力からなると知って、行動を起こすことの大切さを考えさせられました。グラフや表を用いた講義は、太陽光発電だけを勧めることの問題点や電力利用率など分かりやすく、とても楽しかったです。」「発電の方法を組み合わせたり、総合的に見て考えることが大切だと分かりました。また、どのように社会に貢献すればよいかの参考になりました。」「電気料金や電力システムが、どのように決定されているのかという点がよく分かった。さらに、実際の計算によって国の統計・概算資料の分析も面白かった。」などの感想が寄せられました。

 

講演の様子