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2023年度第5回坊っちゃん講座「脳のしくみから考える心の病気とその治療」開催報告

7月22日(土)に2023年度第5回坊っちゃん講座をオンラインで開催し、246名の参加者がありました。

 

本講座は最先端の研究や応用研究において世界をリードしている研究者が研究の面白さを高校生、中学生および大学生に伝え、勉学意欲の向上と進路選択に資するために開講しています。

 

今回は、本学先進工学部 生命システム工学科 瀬木(西田)恵里 教授に講演いただきました。最初に、「研究者への歩み」として、京都大学入学後、馬術部に入り生き物に日々触れる生活を送ったこと、4年生(薬学部)で、最初は細胞内シグナル研究をしていたが挫折、大学院進学後は、ある分子のノックアウトマウス作成に挑戦し、一つの分子が個体の生死を決めることに驚きとすごさを感じたこと、その後、博士研究員、助手を経て、イェール大学に留学、この時、研究テーマをうつ病など精神疾患に関する薬理研究にシフト、帰国後任期付き准教授として独立して研究を行い、うつ治療をキーワードにしながら神経調節に着目した研究を立ち上げ、2015年から東京理科大学にてラボを開設しているお話がありました。

 

次に、「脳の仕組みからうつ病とその治療を考える」として、①~③の説明がありました。

 ①うつ病態とうつ病研究

 ②うつ病の神経科学と現在の治療法

 ③新しいうつ治療法の開発に向けての取り組み~海馬に着目した私の研究紹介~

 

①~③の話の中で、瀬木(西田)研究室の研究成果が3つ紹介されました。

・研究仮説として、抗うつ薬を投与すると若い神経が増えて、海馬の機能が回復するのではないか?

 ⇒抗うつ薬による神経新生に関わる受容体を発見。タイプ4受容体が存在しないと抗うつ薬の効果が

  出ない。

・電気けいれん刺激と抗うつ薬SSRI投与によるマウス海馬歯状回遺伝子プロファイル

 ⇒抗うつ薬と電気刺激という一見異なる治療をしても、最終的には海馬で同じような遺伝子の発

  現変更が起こる。この解析から予想されることとして、共通して起きる変化が、海馬の変化や抗

  うつ行動を誘導するためには重要であり、新たな抗うつシグナルの同定が可能。

・研究戦略として、ウイルス(遺伝子の運び屋)の力を借りて、転写因子SRFの発現を減らす(ノッ

 クダウン)。

 ⇒海馬にウイルスを感染(蛍光タンパク目印)させたところ、SRFの発現が海馬で減った。すな

  わちSRFがないと若い神経が増えない。そこで明らかになったことは、転写因子SRFは抗うつ治

  療による応答を制御する鍵となる。

 

この章のまとめとして、Take home messages(自宅に持ち帰ってほしいメッセージ)がありました。

 ・神経科学の視点からうつ病を捉える試みはこの20年くらいで急速に進歩してきた。

 ・セロトニン・ノルアドレナリンという神経伝達物質の変化だけではなく、神経で起きる変化(神経

  発達、遺伝子発現)を捉えることで、抗うつ効果につながる新たなシグナルを見つけ出せる可能

  性がある。

 ・これからは脳領域のつながり(回路)を明らかにしていくことで、脳全体でのうつ治療を考える

  ことができる。

 

最後に、「今の自分から未来を考える」として、過去の自分が今に繋がっており、今の自分とその時々の出会いから未来が形作られるとして、大学時代の恩師の言葉「青い鳥は心の中にある」により、“勝つか負けるか”からの新たな価値観を見出したこと。留学での体験により、“全てを注ぎ込む”からの新たな価値観を見出したこと。続ける工夫として、“選ぶ覚悟”、“燃え尽きない”、“応援してもらう” こと。そして、ストレスをしなやかに受け止める脳になると良いなと思いながら研究を進めている話がありました。締め括りに、所属する先進工学部について、アイデアをどんどん試すデザイン思考による問題提言/解決をする学部であり、瀬木(西田)研究室では、戦略・実験・結果・考察/新仮説のサイクルを回し、研究という未知の旅を通じて皆で進化する組織を目指しているとのメッセ―ジがありました。

講演後、参加者から届いた多数の質問に瀬木(西田)先生が1つ1つ丁寧に回答していただきました。

 

参加者からは、「生命システム工学科でできる研究内容を知れたことと、瀬木(西田)先生自身が薬学部の出身であること、そしてこの研究自体が医学、薬学、化学、心理学、哲学などとも絡むことにも考えが至りました。講演での研究内容も、その後の質疑応答も大変面白かったです」「医療に興味があり何を専攻するのかを考えているところですが、心の病でも色々な方向から掘り下げていけることが分かりました。先生が学生の視点に立って、研究だけでなく人生全般に渡って非常に分かりやすく説明していただけたのが良かったです。先生の言葉で『学部を問わず、やりたいことがあればどこででも研究できる』『いくつかの遍歴のあとに自分の中を見ることで自分の研究テーマを見出すことができる』とあり、今後も自信を持って挑戦して、先生の様に自分の骨格となる専攻、研究を見つけていきたいと思いました」「学校での探究活動が本格的に始まり、ひとつのことを研究し続ける難しさと、知りたいことを知るための方法を考える重要さを特に感じていました。今回の講演で一通りの研究の流れを知れたことで、よりひとつひとつ検証して証明する過程の必要性がわかりました」などの感想が寄せられました。

 

 

講演の様子

  • 坊っちゃん講座
  • 高校生のためのサイエンスプログラム
  • 算数/数学・授業の達人大賞
  • 理科・授業の達人大賞
  • 発行物
  • 教育DX推進センター
  • 教職教育センター
  • 東京理科大学
  • 宇宙教育プログラム
  • 数学体験館
  • なるほど科学体験館
  • 協賛 東京理科大理窓ビジネス同友会

東京理科大学 理数教育研究センター
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