2022年度第12回坊っちゃん講座「”電気絶縁材料”とは?」開催報告
3月11日(土)に2022年度第12回坊っちゃん講座をオンラインで開催し、100名近い参加者がありました。
本講座は最先端の研究や応用研究において世界をリードしている研究者が研究の面白さを高校生、中学生および大学生に伝え、勉学意欲の向上と進路選択に資するために開講しております。
今回は、本学理学部第二部化学科の卒業生で、現在、東芝エネルギーシステムズ株式会社 材料技術開発部でご活躍されている松﨑栄仁氏に講演いただきました。松﨑氏は、社会人になってから、研究職としての仕事をしていく中でさらに勉強する必要性を感じ、社会人学生となりました。本学博士後期課程を修了、博士(理学)の学位を取得し、理窓博士会(同窓会)の第15回学術奨励賞を受賞したことで、この度ご講演いただくことになりました。
今回の講演では、電気を作る(発電)、送る(送電)、貯める(蓄電)という各要素におけるキーパーソンであり縁の下の力持ちとして活躍している「電気絶縁材料」について講演いただきました。
最初に、電気絶縁材料が使われている場所(用途)について以下のとおり説明がありました。
・エネルギー(発電分野):発電機器(火力、水力など)
⇒ コイル絶縁(テープ材)
・エネルギー(送変電分野):送変電機器(開閉装置、変圧器など)
⇒ 絶縁コーティング、絶縁スペーサ、絶縁性ガス、絶縁油
・医療/超電導:重粒子線ガン治療装置(ガントリー)、単結晶引上装置
⇒ 樹脂
次に、導体・半導体・絶縁体について、電気の流れやすさは電気抵抗率(体積抵抗率)の違いで分類
され、各用途について以下のとおり説明がありました。
・導体 ⇒ 電気を送るための主体。金属やカーボンなど。
・半導体 ⇒ 多くの電子機器に使われている。電気を流したり流さなかったりして、スイッチの
ような役割を果たす。特殊なところでは、避雷器などにも用いられる。
・絶縁体(不導体) ⇒ 電気を通さないことで、電気による悪影響を及ぼさなくする。
この後、松﨑氏の研究所での日常、学生時代の思い出、仕事でのやりがい等についての話をはさみ、現在勤務している東芝グループの事業紹介がありました。
最後に、松﨑氏が仕事をする上で大切にしていることとして、東芝の創業者である田中久重の「万般の機械考案の依頼に応ず」と藤岡市助の「至善」の紹介がありました。いま自分がしていることは、お客さまの気持ちに応えているか、客観的にみて正しいかを考えて仕事をしており、一部の人が幸せでも、他の人が不幸せになれば、それは良い技術とは言えないのではないかというお話でした。そして、好きな言葉である「科学とは、真実を探求するもの - 敵を倒したり、誰かを傷つけたりするゲームではない」(ライナス・ポーリング[ノーベル化学賞・平和賞受賞者])を視聴者に送り、講演を締めくくりました。
その後、参加者から「Q&A機能」を用いて質問を受け、多数の質問に松﨑氏が1つ1つ丁寧に回答してくれました。
参加者からは、「大学ではなく企業からの講師で、企業の視点から見ることのできる貴重な機会でした。特に今回の講義で、これからのエネルギーの発電に重要な電気絶縁材料の技術の分野にも興味を持つきっかけになった。」「導体と絶縁体の体積抵抗率の間に10の25乗もの差があることに驚いた。電気絶縁体という単語は知っていても、それが具体的にどのように使われているかは知らなかったので、ガントリーのように人類に直接的に利益をもたらす使われ方を知ることができて良かった。」「研究している方の志とされていることもわかり、とても魅力を感じました。」などの感想が寄せられました。
講演の様子