
- 十年ごとに読みなおすために、大学時代に読んでおきたい一冊若きウェルテルの悩み岩波書店(岩波文庫)1951年
恋愛小説の枠をはるかに超えて、人生そのものについての深い洞察に満ちた本です。感受性あふれる心を唯一の拠り所にして全力で生き、社会と衝突することも辞さない熱い主人公の姿は、突出した意見を述べるとすぐに「炎上」しかねない現代に生きるわれわれの目から見ると、まぶしくも、ウザくも映るかも知れません。「君たちは本当に生きていると言えるのか?」と読者を挑発してやまないこの小説は、共感するにせよ、反撥するにせよ、大学時代にぜひ読んでおくべき一冊だと思います。30代、40代、50代・・・と、十年ごとに読みなおすことで、自分の考え方の変化や成長をはかることのできる、奥行きを持った稀有な書物だからです。
- 原文でも味わおう、偉大な科学者の名言科学者という仕事 独創性はどのように生まれるか中央公論新社(中公新書)2006年
ニュートンやキュリー夫人、アインシュタインら、科学史に名を遺した偉大な人物たちの含蓄に富んだ言葉を通して、科学とは何か、科学者はどうあるべきかを考察したすぐれた本です。引用された言葉の原文(英語、フランス語、ドイツ語)が、54も巻末に収録されているので、辞書をひきながら、その意味をじっくりと考えてみるのも楽しいと思います。私は担当しているドイツ語の中級の授業で、この本に収録されているアインシュタインの言葉を、学生さんたちと一緒に読んでいます。
- 注意:この先に沼があります或る「小倉日記」伝 傑作短編集(一)新潮社(新潮文庫)1965年
松本清張の小説の主人公たちの多くは、冷酷無情な社会や時代の壁に突き当たり、苦闘もむなしく闇のなかへと葬られてゆく。しかし、一般的な世間の目からは徒労とみなされてしまうかも知れない努力も、その軌跡そのものに、かけがえのない意味があるというメッセージが、淡々とした筆致で、しかし力強く表現された表題作を読むと、この作家の魅力にはまって抜け出せなくなりますので注意してください。
- 水晶 他三篇(岩波文庫)岩波書店1993年
十九世紀オーストリアの作家シュティフターの短編集『石さまざま』はいかがでしょう。雪山での遭難(「水晶」)、洪水(「石灰石」)、ペスト(「みかげ石」)、戦争(「石乳」)など、さまざまな危機に直面しながらも誠実に生きる人々のありようが、静かな筆致で描かれています。シュティフターがこれらの作品を書くことによって見出そうとした、人間の営み全体を統べている自然の「おだやかな法則」(『石さまざま』の序を参照)とは何か、それを考えることは、現代においてますます意義を増しているように思います。
- 私本太平記(吉川英治歴史時代文庫、全八巻)講談社2012年
大長編にもチャレンジしてみてはいかがでしょう。
何に拠って立つべきかわからない混迷の時代を、しぶとく、たくましく生きる人間たちを描いた群像劇です。現在BSで大河ドラマ『太平記』もアンコール放送していますので、あわせて見るときっとはまりますよ。 - 日本文学100年の名作 第10巻 バタフライ和文タイプ事務所(新潮文庫)新潮社2015年
新潮文庫100年を記念して編まれた10巻からなる短編小説アンソロジーの最終巻です。小川洋子、桐野夏生、吉田修一、木内昇、伊坂幸太郎ら、現代日本を代表する書き手の珠玉の作品の数々に、思わずうならされます。この本を出発点に、気に入った作家の他の作品もどんどん読んでみると楽しいと思います。