館長メッセージ館長メッセージ

数学体験館は、本学栄誉教授で数学者秋山仁の指導の下に2013(平成25)年10月にオープンしました。主な目的は、子どもから大人まで数学を楽しく学べる教具・教材等を開発し、それらを展示し、さらに成果を国内外に発信することです。同時に、大学での数学の初年次教育を充実し、学生諸君の学習意欲や教育力向上も目指しています。
その哲学は、戦前の東京物理学校を卒業した数学者小倉金之助の「如何に高度に抽象的な数学の研究と雖も、究極に於いては、人類の幸福のためのものである」ことを具現化したものです。戦後、東京理科大学の初代学長本多光太郎は、明治期、日本を代表する物理学者である長岡半太郎の指導を受けていました。本多光太郎の大事にしていた言葉「今が大切」は、ラテン語のカーペ・ディアム(Carpe Diem:「今を生きる」英語ではseize the day)に当たります。
日本を代表する数学者の一人髙木貞治は、戦前の東京物理学校で数学を教えていました。彼の随筆集『数学の自由性』の中で、「数学の本質はその自由性にある(カントールの言葉を引用)からこそ、人間も数学(科学)も進化を続けてきた」と書いています。さらに、戦後に日本最初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹と二番目の受賞者である朝永振一郎は、戦前の京都帝国大学時代に数学者岡潔の数学の講義を受けていました。その岡潔は随筆集『日本のこころ』で、フランスの数学者ポアンカレや鎌倉時代の道元禅師の『正法眼蔵』を紹介し、「(数学を勉強するとき)いちばんしなければならないことは何か。その情緒をきれいにすることです。その情緒(人間のこころ)ですが、わたしは情緒を『いのち』の一片だと思っているのです」と述べています。
これまで東京理科大学の発展に寄与してきた先人たちは、数学や物理(科学)は、根本的に「人間のこころを豊かにするもの」と捉えてきました。このことは、1881(明治14)年に設立した東京物理学講習所から現在まで、東京理科大学の理学教育の根底にしっかりと流れています。その使命を後世に伝えるミッションの一つを数学体験館が担っています。
ぜひ一度、数学の楽しさ、面白さを数学体験館でご堪能ください。

 

数学体験館館長 伊藤稔