館長挨拶

ごあいさつ

なるほど科学体験館は、2019(令和元)年6月13日、野田キャンパスに、本学の建学の精神「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」を基に、地域で喜ばれる特色ある社会貢献を果たすことを目指し、神楽坂キャンパスにある「数学体験館」をモデルにして創設しました。ハンズオン形式(体験型)の展示により、科学技術の原理や本質を実感できる空間を提供しています。
 1階は算数・数学の原理や本質がわかる教具を展示し、2階は、身のまわりの不思議を解き明かすなぞときテーブルや計算機の歴史、各研究室が取組んでいる研究紹介を設けています。さらに1881(明治14)年東京物理学講習所の21名の創設者肖像画パネルが飾られています。世界の近代科学技術の黎明期に発明されたトランジスタや真空管、機械式アナログ微分解析機等の展示もあります。野田市、流山市や柏市に隣接している地の利を生かし、子どもから大人まで、分かりやすく理解できるように展示を工夫しています。本館の哲学の根底には、数学や物理(科学)は、根本的に「人間のこころを豊かにするもの」であるという東京物理学講習所設立以来、東京物理学校から東京理科大学へ受け継がれてきた伝統(DNA)があります。

本学の初代学長本多光太郎は、明治期、日本を代表する物理学者長岡半太郎の指導を受けていました。本多光太郎の大事にしていた言葉「今が大切」は、ラテン語のカーペ・ディアム(Carpe Diem:「今を生きる」英語ではseize the day)に当たります。日本を代表する数学者の1人髙木貞治は、戦前の東京物理学校で数学を教えていました。彼の随筆集『数学の自由性』の中で、「数学の本質はその自由性にある(カントールの言葉を引用)からこそ、人間も数学(科学)も進化を続けてきた」と書いています。さらに、戦後日本最初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹や朝永振一郎らも本学で記念講演を行いました。この2人の物理学者は、戦前の京都帝国大学時代に数学者岡潔の講義を受けていました。その岡潔は随筆集『日本のこころ』で、フランスの数学者ポアンカレや鎌倉時代の道元禅師の『正法眼蔵』を紹介しています。『坊っちゃん』で有名な夏目漱石の最後の作品『明暗』でもポアンカレの『科学と方法』の一節が引用されています。ポアンカレは「一見数学の証明は知性以外に関係がないように思われるのに…実に感受性に属するもの…吾々のこころの中に一種の審美的感情を起さしめる力…この調和は、吾々の審美的要求に満足を与えるのみならず、また吾々の精神を助けてこれを支持するもの」と書いています。

なるほど科学体験館は、「良識ある科学技術が人間のこころを豊かにするもの」であることを理解できるように、野田キャンパスの地域社会に開かれております。数学や科学の楽しさ、面白さを、ぜひご堪能ください。宜しくお願い致します。

なるほど科学体験館 館長 伊藤 稔
伊藤稔

東京理科大学近代科学資料館
館長 伊藤 稔













なるほど科学体験館