資料館スタッフブログ

「近代科学における物理学と哲学の関係(後編)」

どうもみなさん、こんにちは。無事卒業が確定しました、資料館スタッフの A.K.です。 卒業研究では指導教員から、古典文献資料を読み解くためのノウハウをたたき込まれました。もっと研究を続けたいという熱い想いと、大変な研究から解放されたという本音がせめぎ合っている複雑な心境の今日この頃です。

さて、前回は中編として、「明治日本の物理学界」を紹介しました。今回は後編と題して、 いよいよ本題の「物理学と哲学の関係」をお話しします

当時、桑木氏が注目したのはマックス・プランクやエルンスト・マッハによる科学論でした。それは、科学は何を目的とするべきか、科学概念はどのように考えればよいか、といった議論です。これらの考究は認識論や実在論といった哲学的な内容に発展しました。

桑木氏はそれに関連した論文をいくつも書き、そしてそれは友人の哲学者・田辺氏の知的好奇心も刺激したのです。桑木氏が取り上げた物理学における哲学的な議論は、物理系の科学雑誌に掲載され、田辺氏はそれをさらに発展させた論文を哲学系の学術誌に寄稿しました。

彼らのそういった研究は、当時の科学者らに自らの研究についての内省を促し、科学、とりわけ物理学についてのメタ的な自意識と意義深い考察を生み出しました。

しかもその研究成果は当時の流行に乗っただけというわけではなく、寺田寅彦などの著名な科学論者へも大きな影響を与えました。桑木氏らの物理学と哲学の交流が、現在の日本の科学論・科学哲学の下地を作ったと言っても過言ではありません。

リベラルアーツ教育が徹底していた西洋の学者ではなく、ようやく国家が近代化してきたという頃の日本の学者たちによって、このように物理学と哲学の交流があったというのは非常に興味深く、当時の学問界の時代背景をよく反映している一例であると思われます。

最後になりますが、現代の科学者、もっと広い表現をするならば、理科大生のような「現代の理系の学生」が科学史や科学哲学をやる意義とはなんでしょうか。その答えを見つけるためにも、近代科学資料館へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

相対性理論の論文紹介
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