「論理的思考に基づいた課題解決力は、無機化学の研究で未知の領域を調べる際に、体に染み込んだものです。」
「アートディレクターとは、クリエイティブにおける“美術監督”です」。そう話す佐野みなみさんは、デザイン事務所SMDOの代表兼アートディレクターであり、理学部第一部化学科出身という経歴を持つ。もともと絵を描くことが得意だったが、理系の勉強も好きだったことから理科大に入学。大学院では無機化学を研究していたが、絵画や写真などの活動が評価され自身の適正を見つめ直した結果、大学院を中退してクリエイティブの道に進むことを選んだ。その後、特待生として専門学校に通い、デザイン事務所での経験を経て2010年にSMDOを立ち上げた。
「独立して15年目を迎えますが、3年目あたりまでは毎日が必死でした。強いコネクションも無かったため、企業同士の交流イベントにポートフォリオを持ち込み営業したり、ひとつの仕事の成功から次の仕事を紹介してもらったり。地道な活動が今のクライアントとの仕事につながっています」。SMDOは、現在20名ほどのデザイナーやイラストレーターが所属し、数々の企業やブランドのクリエイティブ制作、さらには総合的なビジュアルブランディングまでも手掛ける。多いときには 20件もの案件を同時に取りまとめるのが、佐野さんの役割だ。この仕事には、理科大の研究で培った力が大きく役立っているという。「SMDOの特徴・強みは徹底した分析と整理、そして検証です。まず、クライアントの要望を正確に理解するための細かいヒアリングをし、それに応えるためのデザインリサーチを徹底的に行います。導き出したコンセプトをもとに、必要に応じた数の提案作品を検証していきます。こうした論理的思考に基づいた課題解決力は、無機化学の研究で未知の領域を調べる際に、体に染み込んだものです」。今後は経営者としての経験も生かしながら、コンサルティング領域にも事業を拡げていきたいという。「これからもデザインという枠にとどまらず、クリエイターが自分の特性を生かしながら多様な才能を発揮できる、働きやすい環境を目指していきたいです」。分野の異なる世界で精力的に活動するバイタリティと、ロジカルなデザイン思考を掛け合わせた佐野さんの活躍に今後も期待したい。