※内容は「東京理科大学報」 vol.235 掲載時のものです。

パラアスリートと理科教員の二足のわらじで活躍。基本を忠実に守り、次なる重量・世界の舞台に挑戦する。

理科教員をしながら、アスリートとしても活動
パラ・パワーリフティング選手

樋口 健太郎さん

パラ・パワーリフティング選手
東京理科大学理学部第二部化学科卒業。2017年バイク事故を機にパラ・パワーリフティングに挑戦。同年12月全日本選手権72kg級で初優勝。2023年杭州アジアパラ競技大会で186kgの日本新を記録。現在は、小学校の理科教員をする傍ら、株式会社コロンビアスポーツウェアジャパンのサポートを受け、パラアスリートとしても活動。

「中学時代の理科が楽しくて、当時教えてくださっていた先生に憧れて理科教員を目指しました」

鍛え上げた上半身で、重りの付いたバーベルを押し上げる「ベンチプレス」。パラ・パワーリフティングは、下肢障がい、または低身長の選手が、障がいの程度ではなく体重別で行うベンチプレス競技だ。台の上で仰向けになり、バーベルを持ち上げる時間はわずか3秒。選手たちはその一瞬に力を爆発させる。

都内の小学校で理科教員をしながら、コロンビアスポーツウェアジャパン所属のアスリートとしても活動している樋口さんが、パラ・パワーに出会ったのは7年前。2017年9月に追突事故で右足の大腿部を失い、義足になったときのことだ。「スポーツトレーナーをしていたこともあって、以前からパワーリフティングに興味を持っていました。事故での入院中に教え子がパラスポーツの資料を持ってきてくれて、これまでのトレーニング経験も生かしてできるパラ・パワーに挑戦してみようと思ったんです」。入院中からトレーニングを始め、同年12月の全日本選手権に出場。72kg級で136kgを挙上し初優勝を飾った。現在は公式ベスト186kgを記録しているが、これまでの選手生活では数々の怪我にも悩まされてきた。「パラ・パワーは筋力も大事ですが、正しいフォームで効率よく押し上げることが何より重要です。フォームが乱れるとすぐ怪我につながり、重量も伸ばすことができなくなるため、競技をやる上で一番大切にしています」。

Tbilisiワールドカップでのメダル

平日は小学校で理科を教えながら、パラスポーツの講演会や体育の特別授業で各地の学校にも訪れている樋口さん。理科大在学時は理学部第二部の化学科に在籍し、昼間は他大学の学生職員をしながら、夜間は理科教育論や指導法などを学んでいた。課題に追われながらも4年で卒業し、教員免許状取得のために、また数年通ったそうだ。「中学時代の理科が楽しくて、当時教えてくださっていた先生に憧れて理科教員を目指しました。教科書だけの理科を教えるのではなく、実際の生き物や映像を見せたり、みんなが楽しめる授業を心がけています。理科大では、そういった理科教育の基礎や実験の楽しさなどを学べたことに感謝しています」。逆境に負けず闘い続ける先生は、これからも子どもたちに多くの影響を与えるだろう。

競技中は義足を外して腰を反りやすくしているという