※内容は「東京理科大学報」 vol.226 掲載時のものです。

糖質を抑えながらも、麦芽本来の旨みをキープ、
国内初※1 の糖質ゼロ※2 ビールを開発

大ヒット商品の技術開発を担当
研究者として、母として第一線で輝き続ける
キリンホールディングス株式会社
R&D本部 飲料未来研究所 応用技術開発ユニット 主務

森下 あい子さん

キリンホールディングス株式会社
R&D本部 飲料未来研究所 応用技術開発ユニット 主務
2003年3月 東京理科大学理工学部応用生物科学科卒業。2005年3月 理工学研究科応用生物科学専攻 修士課程修了。同年4月キリンビール株式会社入社。生産本部取手工場品質保証担当。2008年10月キリンビバレッジ株式会社本社品質保証部。2010年10月より現職。

「ビール好きの人に、もっと気兼ねなく飲めるおいしいビールを造りたい。それがスタートだった。」

世の中に衝撃を与えた国内初※1 の糖質ゼロ※2 ビール『一番搾り 糖質ゼロ』。健康に配慮したビールとして幅広い層から支持されて大ヒットを記録した商品だ。この商品の技術開発を担当したのが森下さん。開発のきっかけはお花見で、友人が発した「ビールは好きだけど、最近は体型とか健康のことが気になって…」という何気ない一言だったという。ビール好きの人に、もっと気兼ねなく飲めるおいしいビールを造りたい。それがスタートだった。麦芽を50%以上使うビールでの糖質カットは困難の連続。試行錯誤の末、糖質低減に適した麦芽を選び、麦芽由来のでんぷん(糖質)を最大限に分解、発酵段階では通常ビールに比べ、厳しい管理をされた元気な酵母が糖質を食べきるという新製法を開発。「糖質カットももちろんですが、一番苦労したのは、おいしさとの両立です。糖質はビールのおいしさを構成する要素の一つなので、ビール本来のおいしさをキープすることはとても難しかったです。」350回以上行った試験醸造のうち、味わいの追求に60回以上を費やし、ようやく麦芽本来の旨みを実感できる味わいに仕上がったという。

タンク内の発酵の状態を確かめる森下さん。

商品として無事に発売できたのは、開発を始めてから5年後。「時間はかかったけれど、納得のいく商品を世に送り出すことができて安堵した」と森下さん。周囲からの評価も上々だったという。理科大に在学中は、応用生物科学を専攻。つくばにあった農業生物資源研究所で外部研究生として、イネのストレス耐性を向上させる研究に取り組んでいたそうだ。「納期がある中で、目標に向かって研究を進めるという点は、今の仕事と通ずるものがあります。成果を求められる環境下でも、考え抜く力・やり抜く力を持てたのは、この時の経験が大きかったと思います」。森下さんは、現在、中学生と小学生のお子さんを持つ、ワーキングマザーでもある。会社やチームのメンバー、家族の協力を得ながら、今なお、第一線で活躍し続けている。研究者としても、母としても、全力で取り組むバイタリティに溢れた森下さんが、次に世に送り出すのは、どんな商品なのか、今から楽しみだ。

 

※1 ビールで糖質ゼロを実現した国内で初めての缶商品(2020年1月Mintel GNPDを用いたキリンビール調べ)
※2 食品表示基準による  

2020年に発売された『一番搾り 糖質ゼロ』