「薬が相手で正解が決まっている仕事と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。 薬剤師の仕事は人間相手で、ベストな答えが難しく、毎日が手探り状態です」
薬剤師というと病院のすぐ近くにある薬局を思い出す人が多いのではないだろうか。しかし、実際の薬剤師の活躍の場はさまざまであり、その仕事も多岐にわたる。そんな薬剤師の真の姿を発信し続けている人がいる。東京理科大学の卒業生である富野浩充さんだ。現在、病院薬剤師として勤務する傍ら、雑誌の連載やコミックの監修を手がけている。テレビドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』の原作コミックで、富野さんは医療原案を担当してきた。そのきっかけを尋ねると「高校時代から文章を書きたいと考えていて、大学卒業後はジャーナリスト専門学校に通って文章を書くスキルを磨いたりしました。その後、薬剤師の仕事は周知されていないと感じて、薬剤師に関する同人誌などをつくっていましたが、そうした活動の延長線でコミックづくりに関わるようになりました」と富野さん。コミックの主人公は病院薬剤師の女性で、その仕事内容がリアルに描かれている。処方箋の疑問点を医師に確認する疑義照会、病室を回って入院患者に行う服薬指導など、薬剤師の仕事を垣間見ることができて興味深い。
富野さんに大学時代に学んだことで役に立っていることを尋ねると、何もないと意外な答えが返ってきた。植物科学の研究室で学び、薬剤師の資格を取得して富野さんに薬の知識がないわけはない。その真意を確認すると「薬が相手で正解が決まっている仕事と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。薬剤師の仕事は人間相手で、ベストな答えが難しく、毎日が手探り状態です」そう語る言葉からは、仕事に対する真摯な態度が見えてくる。薬剤師の仕事と、ものを書き発信することに取り組む富野さんの将来の目標は、自分の著書を世に出すこと。
それを目にする日が、いまから待ち遠しい。

富野さんが医療原案を担当するコミック。テレビドラマ化もされて2020年7月~9月まで放映された。コミックは現在も連載中。