見ただけでは使い方が分からない、コロンとした不思議な形の木工品。
握ってみると手にしっくりなじむこの道具は、使用者をリフレッシュ状態に導いてくれる新たなアイテム「kitoki」だ。日本たばこ産業など4社が企画・開発し、昨年秋に完成した。その開発プロジェクトの中心メンバーとして奮闘したのが、本学卒業生の桐迫瑛人さんだ。
kitokiは、吸い口をくわえて深呼吸することでリフレッシュできるアイテム。人は緊張すると手のひらに汗をかき、リラックスすると汗が収まる。この体の反応を利用し、本体のセンサーで計測した発汗量が一定量まで低下すると、バイブレーションで使用者に知らせる仕組みだ。たばこ中央研究所の嗜好品研究から生まれた「たばこを吸う時の深い呼吸や火を消す所作にリフレッシュ効果があるのではないか」というアイデアをヒントに誕生した。

桐迫さんの学生時代の専門は有機化学。入社以来、たばこの品質分析など専門性を生かした業務に就いていたが、2年前、若手中心のkitoki開発のプロジェクトに抜擢された。プロジェクトでは、何を作るか、アイデアをどう具現化するかなど、あらゆる判断を桐迫さんら若手メンバー主導で行い、デザイン、設計、契約といった研究者にはなじみの薄い仕事にも関わった。「普段とはかなり毛色の違う仕事でしたが、『これは自分にとってチャンスに違いない』と思って頑張りました」
この新しいチャレンジが、桐迫さんの研究開発に対する考え方を大きく変えたという。「研究以外の仕事を経験したことで、売れるモノを作るためには、マーケティングの感覚を持って仮説を立て、研究課題を設定し、成果を挙げることが必要だと考えるようになりました。今後は、製品の企画から販売までバリューチェーン全体を見渡して研究開発に取り組んでいきたいと思っています」
学生時代は研究に没頭していたという桐迫さん。「特に院生時代は、朝8時から夜10時ごろまで研究室にいました。有機化学に捧げた3年間でしたね」と笑う。そんな思い出深い母校で学ぶ後輩たちに、最後にこんなエールを送ってくれた。「プロジェクト参加当初は、専門外の分野では活躍できないと思っていました。しかし、研究者のロジカルな思考は、デザインを具現化するといったクリエイティブな場面でも案外役に立ちました。自分を信じて挑戦し続けると、思わぬ成果が得られます。可能性を信じて、何事にも飛び込んでみてください」
