プロの料理人、料理研究家など、食や生活の質にこだわる人たちが絶賛する、メイド・イン・ジャパンの調理器具がある。
「バーミキュラ」という鋳物ホーロー鍋だ。この商品を製造・販売する愛知ドビー株式会社の社長が、理科大出身の土方邦裕さん。大学時代の思い出について聞くと、「ほぼ勉強一色でした」と笑う。「とにかく遊ぶ暇がないんです。平日は夜7時まで、さらに土曜日も授業がある。授業の後は同級生の部屋に集まって、課題に取り組んだりレポートを書いたり……クラスメートとは、勉強を通じて濃密な関係を築いていました」
そんな中、印象深く覚えているのは、次代を先取りするような講義が多かったこと。
「意外だったのは、コンピュータ言語の授業があったこと。自分でHTMLを書いて“自分のホームページ”を作成するんです。経営工学という分野の中にはこんな科目もあるのかと驚きました。卒論を“Word”のデータで提出したのも僕らが最初じゃないかな。僕の卒論は『自動倉庫のシステム』に関するものだったし、AI(人工知能)の研究室もありました。今にして思えば、かなり先進的なことを学んでいたんですね」

卒業後は総合商社に就職するが、2001年、家業である愛知ドビーに入社。当時の同社は、大手メーカーの下請けとして船舶や建設機械向け部品の鋳造・精密加工を行っていた。しかし中国メーカーとの競争で単価は下落。業績は大幅に悪化していた。
「幼い頃から工場で遊んでくれた職人さんたちが、意気消沈しているのを見ていられなかった。この会社を再建することが僕の使命だと思いました」
入社後は、鋳造部門の現場に入り、工場長の元で3年間みっちり仕事を学んだ。日本鋳造協会が開催する「鋳造カレッジ」にも通い、必要な要素技術を身に付けた。やがて下請けの注文は少しずつ増えていき、経営も持ち直してきた。
その後、06年には弟・智晴さんもトヨタ自動車を辞めて合流。下請けからの脱却を期して開発したのが「バーミキュラ」だ。16年には、鋳物ホーロー鍋を使った炊飯器「バーミキュラ ライスポット」も発売。この商品で海外進出を目論む。
「今年の秋にはアメリカで発売。来年以降は中国・アジア市場への進出も視野に入れています」
最後に、現在の理科大生に向けてメッセージをいただいた。
「4年間、勉強に打ち込むことで培った集中力は、社会に出た後も必ず役立つはず。加えて、学外の多様な人たちとの交流を通じて、視野を広げてほしいですね」
