※内容は「東京理科大学報」 vol.209 掲載時のものです。

自分が生きていく道を見つけることは容易ではない。
それでも周囲に流されず、見つけてほしい。

時間を忘れて夢中になれることが天職に
画家・デザイナー
2012年理工学部建築学科卒業

岸 勇樹さん

画家・デザイナー
2012年理工学部建築学科卒業
1987年生まれ。2012年、東京理科大学理工学部建築学科卒業。主にドイツ・ロットリング社の製図ペンを用いて絵画・イラストレーション制作を行う。主な仕事に、絵画の販売、企業からのオーダー絵画制作、百貨店とのコラボレーショングッズの販売、店頭ワークショップ・ライブペインティングの開催などがある。

「大学1年生まで『ディズニーランドの建物をデザインする仕事がしたい』と思っていたんです。
物語の世界をゼロから構築することが好きだったんですね」

 現在、画家・デザイナーとして幻想的な世界を細密な描写で表現し、各方面から高い評価を受けている岸さん。理科大の理工学部建築学科を志したのは、その夢を実現するためだった。しかし、夢はあえなくついえてしまう。
「ディズニーランドの建物をデザインするためには、アメリカのディズニーに就職する必要があると知ったんです。僕は飛行機が苦手なので、あきらめざるを得ませんでした」
 しかし、大学4年のとき、授業の中で新たな夢と出会う。長野県・小布施のまちづくりに関連した製図を行った際のことだ。「みんなはパソコンソフトを使って建物を描いていたんですが、僕はパソコンを使えなかったので、教授が『じゃあ岸くんは、手描きで植栽を描いてみたら?』と言ってくれたんです。緻密な作業を長時間続けているとペンの使い心地がよく分かります。今も愛用しているロットリングのペンを使うと、時間を忘れて夢中で描くことができた……ペンによって、自分は“描く”という行為がこんなにも好きなんだということに気付かされたんです。そして『こんなに夢中になれることが仕事になったらいいな』という思いから現在に至っています」

 理科大では、クリエイティブな感性とともに論理的な思考を学べたことが最も大きな収穫だったと語る。
「ファンタジーの世界観を構築し、その魅力を伝えるためにはロジックが不可欠です。理科大では、自分の創作意図を、パワーポイントなどを使って他者に説明する授業も体験しました。美術系ではなく理系の環境で学んだことは、その後の仕事に役立っています」
 今後は絵に限らず、文章やファッションなどさまざまな創作物を通じて、自分の世界観を表現していきたいと語る岸さん。最後に、理科大の後輩たちにメッセージをお願いした。
「卒業後の進路について悩んでいる人は多いと思いますが、僕自身やりたいことを見つけるまで、とても時間がかかりました。周りが次々と将来の進路を決めて、自分だけがまだやりたいことを見つけられていない状況にあったとしても、その事に対して不安や焦りから負い目などを感じないでほしいと思います。
 僕の場合は、学生最後の4年の夏に自分の進路を決める瞬間に出会うことができました。在校生の皆さんにも、そういった瞬間が訪れることを願っています」