※内容は「東京理科大学報」 vol.207 掲載時のものです。

大学4年間は、長い人生の中でも貴重な時間
自分の価値観を揺さぶるような体験をしてほしい

広い世界を求めて、自ら納得するキャリアを築く
株式会社 栃木放送 代表取締役社長
1983年理工学部数学科卒業

大塚 幹夫さん

株式会社 栃木放送 代表取締役社長
1983年理工学部数学科卒業
1983年、東京理科大学理工学部数学科卒業。同年、中央出版株式会社入社。株式会社日本リクルートセンター(現・株式会社リクルート)などを経て98年、株式会社とちぎテレビ入社。2017年6月より現職。

今年6月、栃木放送の社長に就任した大塚さん。
数学科を志したきっかけは、高校3年の夏休みに受講した、予備校の夏期講習での体験だった。

「物理の先生が突然、『数学は、物理の基本言語だから』と言って、黒板に一般相対性理論の数式を書き始めたんです。もともと数学は得意でしたが、“整然とした理論の美しさ”に気づいたのは、このときが初めてでした」
 理科大数学科では「位相幾何学」を専攻。ゼミ担当教授の自宅を訪ね、仲間たちと酒を酌み交わしながら将来について語り合った。「具体的に、どんな職業に就きたいという明確な目標を持っていたわけではありません。でも、理科大で学び、先生や仲間と過ごす中で“自分が何者かになれる”という漠然とした自信をつけさせてもらったような気がします。早く社会人になって、何かを残す人間になりたいと思いました」
 出身は栃木県真岡市。農家の長男として生を受けた大塚さんには“家督を継ぐ”ことが宿命づけられていた。しかし、大学生活での体験を通じて、しだいに「もっと広い世界を体験し、多くの人たちと出会ってみたい」という思いが膨らんでいく。大塚さんはアルバイトで資金を貯め、ヨーロッパ旅行へと旅立った。

ヨーロッパ旅行の際、スイスのユングフラウヨッホ駅にて

「イギリス、オランダ、西ドイツ、イタリア、スイス、スペイン、フランス――41日間で7か国を訪ねる一人旅でした。高校時代から絵画を鑑賞するのが好きで、いつかは本物をこの目で見ていたいと思っていましたから、美術館巡りが刺激的でしたね。でも何より大きな収穫は、“自分で限界をつくることなく、可能な限りチャレンジしてやろう”という大きな自信を得たことでした」
 この一人旅が、大塚さんにとっていかに大きな転機であったかは、旅の出発日である1982年2月7日を「私の第2の誕生日」と呼ぶことからもうかがえる。卒業後、周囲の反対を押し切って東京で就職・起業を経験した大塚さんは、縁あって開局を目前に控えた「とちぎテレビ」に入社。現在は同社の取締役と、傘下のラジオ局「栃木放送」の社長を兼務している。インタビューの最後に大塚さんは、自らの体験も踏まえ、後輩たちへのメッセージを語ってくれた。
「大学4年間は、長い人生の中でも貴重な時間です。勉強はもちろん大事ですが、それ以外の分野でも、ぜひ、自分自身の価値観を揺さぶるような体験をしてほしいと思います。それまで自分が閉じこもっていた殻を打ち破り、可能性に向かってひたむきに挑戦する人になってほしいですね」