インストラクターブログ

近代科学における物理学と哲学の関係(前編)

はじめまして。資料館スタッフのA.K.です。私は卒業間近の四年生ですが、つい昨年後期から、近代科学資料館でアルバイトを始めました。科学史に関心があり、とある経緯があってここに辿り着きました。展示物はどれも興味深く、もっと早くに訪れればよかったととても後悔しています。

さて、私からは近代科学における物理学と哲学の関係についてお話します。近代科学資料館には東京物理学校(現・東京理科大学)が生まれた明治〜大正期の科学、すなわち近代科学の歴史的資料がいくつも展示されています。その中には物理学者・桑木彧雄による論文が寄稿された「東京物理学校雑誌」があります。桑木氏は日本人として初めてアインシュタインに会い、さらには日本で初めて相対性理論を紹介したことで有名です。

そんな桑木氏ですが、彼は哲学者の兄を持ち、田辺元(たなべはじめ)という同時期に活躍した哲学者の友人がいました。そのような背景もあって、桑木氏は物理学者でありながら、哲学的な議論に非常に強い関心を示していました。

そもそも、科学と哲学は歴史的に見れば、つい最近まではほとんど同じものでした。というのも、「科学(science)」や「科学者(scientist)」という言葉が生まれたのが19世紀なのです。知識を意味するラテン語“scientia”を、芸術家という意味の“artist”になぞらえて作られた単語が“scientist(科学者)”です。芸術家が絵画や音楽の専門家であるように、科学者は数学や物理学といった「知識の専門家」であるというわけです。

「科学」や「科学者」という言葉はたった200年の歴史しか持っていないことになります。それ以前のアルキメデスやニュートンといった学者たちは何者だったのでしょうか。彼らは自分たちのことを「自然哲学者」と呼びました。それは「自然を研究対象とする哲学者」という意味です。科学者はほんの少し前まで、哲学者だったのです。

代科学が成立した背景を考えると、20世紀の物理学者である桑木氏が哲学に関心を抱いたことも、自然なことのように思えます

このお話はまた次回に続きます。


【桑木彧雄による相対性理論の論文が掲載された「東京物理学校雑誌」第232号】