私の授業改善

2019.10.08

藤代 博記(基礎工学部 電子応用工学科 教授)

 団塊の世代から10年遅れて生まれてきた私たちの世代は、当時、何を考えているか分からないと言われ、マスコミから「新人類」という名前を付けられていました。電機メーカーの研究所に同期入社した仲間は、歌って踊れる研究者になると広言したり、早々に医者や技術情報誌の記者に転向したり、また私も10年後には大学の教員になると言っていましたから、当時の上司から仕事への意気込みが足りないと言われていたのも仕方が無かったと思います。その後、バブルと失われた10年を経て、当時の新人類の子供たちは今「ゆとり世代」と呼ばれています。私の講義でもここ5年ほどで、勉学への意欲が感じられない学生や内容についていけない学生が急激に増えてきています。しかし私たちがそうであったように、彼らは今の時代の空気を身にまとっており、同時に次の飛躍の芽も秘めているはずです。

今、電機メーカーはかつて技術指導した韓国や中国、一度追い抜いたはずのアメリカに遅れを取っています。私たちは多くの発明や製品を生み出しながらも、実は前例が示す方向性から大きく外れることなく改良を重ね、逆に過去の成功への信頼ゆえに変革する努力を怠ってきました。一度成功を経験した後の社会に育ったゆとり世代の彼らの目に、未来はどのように映っているのでしょうか?先の見えない閉塞感の中で安定志向に入り込み、意欲を見せられないでいるのは彼らのせいではなく、むしろ私たちのせいです。しかしロールモデルを持たないがゆえに、彼らには今の先に進む可能性も感じられますし、事実、ITやそれを利用した分野では従来モデルから外れた新しいサービスやビジネスが生まれてきています。教育は、先の見えない中で彼らが生き残るためのツールと勇気を持つ手助けをすべきです。

 これからの彼らにとって最も必要なツールは、自ら課題を形成して解決に導く論理的な思考力でしょう。私が担当している電磁気工学は2年生を対象とした1年間の講義です。電磁気学は古くて基礎的な学問ですが、それゆえに仮説を立て実験を行い法則を導く過程を追体験することができます。しかし彼らにとって問題と答えは与えられるものであり、それを分かるように教えてもらうのが授業であると思っています。そこで講義の中では、200年前の人たちが簡単な発見からこれだけ大言壮語な理論を創り出したからこそ今のエレクトロニクスがあるということと、分野や対象は違っても、今から自分たちがそれをやらなければいけないということを意識させるようにしています。未来のかたちはまだ何も決まっていないのですから。また実社会では話を聞きながら要点をまとめ、レスポンスを返すことが必須です。そこで大筋の流れが追えるように板書しながら、口頭で行間を補完して聞き取りをさせています。一方、電磁気学の法則を体感的に理解するには、手を動かして問題を解くことが必要です。そのため演習の授業もありますが、私の講義でも演習問題を用意しています。また毎週、前回の内容を確認する小テストを行うことで、復習の習慣をつけさせるようにしています。さらに演習問題と小テストの解答を研究室のHPからダウンロードさせることで、電磁気学の出口である今の先端研究の一端に触れさせています。

 彼らは今の時代の中心にいて、不安を感じながらも、多数であるがゆえに安心しています。しかし変革は常にエッジから生まれ、今の日本がそうであるように中心にいた者は往々にして取り残されます。変化の速い時代において、中心にいて盲目的であることは最もリスキーです。時代の空気に囚われず、俯瞰し自分の頭で考え、エッジに立つ勇気を持つ学生を育てたいと、かつての新人類は考えています。