「行間もすべて板書そして最後に全員でクイズ」
兵庫 明(理工学部 電気電子情報工学科 教授)
現在では、黒板とチョークの他に、電子媒体、動画、アニメーションなどを駆使して授業を行うことが出来る。これらのアイテムは、授業の内容により適材適所での使用が効果的なのはいうまでもない。かく言う私の場合、専門必修の基礎科目、専門選択科目、他専攻での科目などを担当しており、それぞれ異なる媒体を利用して教えている。電気電子工学の専門基礎科目においては、学生一人ひとりがきちんとその科目の根底に流れるエッセンスを理解し、きちんと計算が出来ることが要求される。決して簡単ではなく、また、易しいものでもない。着実に一歩一歩理解していくことが要求される。私は、ここでは、黒板とチョークのみで授業を行っている。ここで注意していることは以下である。
1.はじめにその日の講義内容の全体像を述べ、世の中のどこに使われているかを伝える。
2.内容に関しては、ほとんどすべての口述内容を板書し、途中式もすべて板書している。
回路図やグラフは印刷したものを使えば便利であるが、これらもすべてその場で板書している。何度も回路図を板書することで、描く順番がわかり、信号の流れや重要度も伝えることが出来る。また、授業の速度もその場で理解できる適度なスピードとなる。行間も略することなく板書するというコロンブスの卵的な発想は、東京工業大学で何度もベストティーチャーに選ばれ、学会でもお世話になっている藤井信生教授が実行されておりその効果をお聞きしたときから実践している。行間もすべて板書することは、「言うは易く行うは難し」で、最初の頃は書くことで精一杯で書いてから説明をしていた。しかし、慣れてくると書きながら説明ができるようになったのはよいが、今度は学生が筆記マシンと化してしまった。このため説明しながら一通り書き終えた後に再度説明を行い、学生が書いているときに聞き漏らしたことを再確認できるようにしている。最近では、素早く理解することが一番重要であるかのような風潮があるが、自分なりに一生懸命考えて考え抜くことが、基礎科目にあっては遠回りでも一番の近道であると思い、例題を多くしその解法も細かく板書している。なお、余談であるが、5年ほど前にJABEEの審査を受審した際、授業を見学された審査員の先生方から、学生が良くノートをとっており感心したとのコメントを頂き、世の中ではノートを取らない学生が増えているのだと再認識した次第である。
3.授業の最後に、当日行ったことの復習の意味で簡単な選択問題を出し、答えと思う番号のところで手を挙げさせている。
手を挙げた学生の中から数名を当て、その答えが正解だと思う理由を尋ねている。クイズ形式で楽しみながら復習が出来る様にし、さらに間違えた答えについても何故間違っているかを解説することにより、学生自身の間違えるとはずかしいという意識を取り去っている。授業の始めの頃は恥ずかしいためか、なかなか手を挙げてくれない。このため、選択肢の中に「いままでの中に答えはない」というものを入れ、必ずどこかで手を挙げなければならないようにしている。さらに、いまのうちに失敗を恐れずいっぱい間違えておくように伝えている。このようなことから、授業が進むにつれ、恥ずかしがらずに手を挙げてくれるようになり、自分で考えるようになっている。200名を超える授業でこれをやることは結構大変であるが、授業が進むにつれ、学生が私の計算間違いを指摘してくれるようになった。また、学生の反応により授業は微妙に変化するため、ライブでなければ伝えられないものがあると感じている。今後は授業の中で、実際に実験が出来ないものかと思案している。
専門基礎科目はこのようなやり方で行っているが、他専攻に電気の概要を講義する場合には、パワーポイントを用いて多くの情報を伝えるようにしている。