達成感を利用して学習意欲を引き出す

有機天然物化学
2020.01.28

今堀龍志(工学部 工業化学科 准教授)

 私の担当している「有機天然物化学」は、天然由来の化合物(天然物)の有用性を学ぶと共に、人類が有用な天然物をどのように利用し、さらにその需要を満たすために、人工的に天然物を生産してきた、有機合成化学の発展の経緯を学ぶ科目です。天然物を作る(合成する)ためには、まず、天然物がどのような分子であるか突き留める必要があり、この授業では、分子の構造を決定する分子構造解析の修得を目的の一つに掲げています。分子構造解析は、天然物化学の分野に限らず、材料化学や創薬化学、触媒化学等の分子を設計して作り、利用する全ての化学分野において必要なスキルですので、工業化学科の学生には非常に重要です。

 分子構造解析を修得するために、授業では、課題を演習形式で一緒に解いていくスタイルを採用し、学生が意欲的に学習できる環境を整えています。まず、演習課題は、解いていくことで達成感が得られるように、易しい問題から開始し、段階的に難易度を上げていきます。適宜解説を挟み、ヒントを出しながら解いてもらうことで、比較的簡単に難しい問題が解けるようになっていきます。短期間に実力がめきめき上がっていきますので、達成感を得ることができます。また、課題は最初に全て配布し、達成感を得て、やる気になった学生が自主的に課題を進められるようにしています。演習の進め方にも工夫をしています。初めに学生をランダムに指名して、自分の回答を板書して説明してもらい、添削をしながら質問を投げかけ、正解に辿り着くように誘導していきます。人前で説明してもらいますので、ほとんどの学生がしっかり準備をして授業に臨みますし、聞いている学生も自分の解き方と比較しながら熱心に耳を傾け、板書している間に、自然に周りの学生と議論が生まれます。修正を加えつつ、正解に誘導することで、自分で解けたという達成感を持ってもらうよう心がけています。また、分子構造が解けて楽しいと感じるように、楽しい雰囲気づくりも大切にしています。実際に、学生達は意欲的に授業に参加しているように見受けられ、授業終了時には、ほとんどの学生が分子構造解析の基礎を修得できています。達成感を上手く利用することで、学習意欲を引き出し、高い授業効果に繋がっていると感じています。

 

「受講した学生の感想」

                                                                                         工学部工業化学科 4年 吉川 浩平

 有機天然物化学を履修した理由は、分子構造解析が化学の研究において必須のスキルであると考えたからです。実際の授業では、解析手法の原理が詳しく説明されていることはもちろん、実践的な分子構造解析を演習形式で行うことで、どのように利用するのかを体得できました。この授業で修得した分子構造解析は、現在の研究で実際に活用できており、非常に有益な授業であったと思います。また、工業化学科の他の授業ではあまり学ぶことができない、薬や生理活性物質の話も含まれており、幅広い観点から興味深く授業を聞くことができました。