事前事後学習を増やす試み ~反転授業の観点から~

量子力学3A
2019.10.29

鈴木克彦(理学部第一部 物理学科 准教授)

 大学生の事前事後学習時間の少なさは深刻な問題ですが、本稿では事前事後学習 を増やす試みをご紹介します。事前事後学習の不足は授業難易度が上がるほど深 刻な事態を招きます。私が担当する「量子力学3A」(選択必修3年)はその典 型例で、理解のために相当な自学が不可欠ですが、実情は程遠く単位合格率も 60%程度でした。対策として、小テストを頻繁に課し段階的な知識の定着を目 指したのですが、効果がありません。この方法は、個々の疑問点の解決や深い学びにつながりませんでした。

 そこで、2016年から反転授業を採用しました。毎週、学生は約20分のビデ オ講義を2つ受けてノートにまとめ、LETUSを通して電子的にノートを提出し ます。それ以外の課題はありません。その後の対面授業では演習を行い、理解を 定着させます。

 「ノートにまとめる」という事前学習により、家庭学習時間は本学全体の平均と 比べて大幅に増加しました(図)。興味深いことに、毎週レポートなどの事後課 題を課した授業では、事前事後学習はこれほど増えません(図の3段目)。学生 はビデオを繰り返し見ることで、「理解してまとめる」作業に予想以上に熱心に 取り組むことが分かります。履修者約70人に対し、途中で脱落する者は数人、 合格率は95%程度となり、以前とは格段の差です。最後に学生からのコメント をいくつかご紹介して、この報告を終わります。事前事後学習のあり方を考える 上でご参考になれば幸いです。

 I.M.さん『事前事後学習時間は反転授業を受けている分増えていると思う。事前 事後学習の時間は、ビデオ講義に関して自分のペースで講義を受けられるため、 曖昧な点で止まって調べたり、計算過程を埋めたりするため増加し、そのためよ り深い理解ができる。』

 A.Y.さん『宿題がレポートの場合には、分からなくて詰まったら時間がとてもか かる。それよりも授業が宿題となって、演習を授業時間内にできることは助かっ た。全ての授業がこのビデオ講義体制をとってしまうと、時間が足りなくな る。』