一品二魄三声四節

表面物理化学
2019.10.26

渡辺量朗(理学部第一部 化学科 准教授)

■はじめに
 今回は特に、授業のビデオ収録とその活用法について書いて下さい、とのことでしたので、まずそれについて書きます。その次に、私が日々取り組んでいる声のトレーニングなどについてご紹介します。

■授業収録について
 以前、授業収録配信システムが導入されてすぐに、試験的な収録を行いました。5~10分間ほどで、自分の授業の概要を紹介することにしました。カメラのレンズを相手に話すというのはどうも不自然でうまくいかないような気がしたので、研究室の学生2名にもサクラとして収録室に来てもらいました。しかし、本番ではカメラの前で妙に緊張して、汗をかいてしまいました。収録したビデオは、自分では二度と見ることはありませんでした。
 その後、各学部において一定数の講義の全回分の授業収録を行うことになったため、FD幹事の私も志願しました。理学部化学系3年生向けの講義「表面物理化学」を収録授業に選びました。受講者数は今年度(2016年度)41名でした。「表面物理化学」では、スライドを使って授業を進めます。受講生はLETUSからスライドのPDFファイルをダウンロードし、プリントアウトして授業に持参します。講義の最終回で挙手による調査をしたところ、授業ビデオを見た、という学生は半分弱くらいでした。授業で毎回実施しているアンケート(兼クイズ)では「授業ビデオは復習や欠席時の補習に役立った」との回答が複数見られました。
 このように、授業を収録して、後で何度でも見返すことができるようにするのは、受講生にとって、大いにメリットがあるようです。教師にとっても、ビデオを見返して講義中の自分の姿やトークを確認することは、授業改善にとても役立つと思いました(初めは苦痛でしたが慣れました)。

■声を鍛える
 さて、いくらITが発達し、オンライン授業が身近になっても、当分はライブ授業にしかできないこと、ライブ授業ならではの魅力があり続けることでしょう。キャンパス間の遠隔会議のようなもどかしさは当分続くでしょう。とは言え、AI教師が人間の教師を駆逐する時代が早々に来るのかも知れませんが。
 教育の基本は人と人とのコミュニケーションです。対話には、声や表情が決め手です。私はもともと、恥ずかしがり屋で声が小さく、滑舌もよくありませんでした。学生時代、たまたま詩吟のサークルに入部し、人前で詩吟をやる機会ができました。それで、多少は声が大きくなり、舞台に立ってもあまり上がらなくなりました。しかし、滑舌の悪さは改善できませんでした。
 その後、本学に奉職していよいよ必要性を感じ、ボイストレーニングを受けました。現在日課として、腹式発声と滑舌の練習を毎朝数分間ですが行なっています。続けたところ、次第に滑舌が改善されてきました。滑舌練習として有名な「外郎売り」も、今では全部暗誦できます。
 他大学で外国語教師をしている弟には以前、落語のCDを聴くことを勧められました。私には到底無理ですが、落語家は、目指すべき、遠きエベレストです。

■一品二魄三声四節
 詩吟の先生のお宅が市ヶ谷にあるので、今も時々詩吟の稽古に行きます。一昨年の秋には、詩吟の全国大会で合吟(合唱)を行い、日本武道館のステージに立たせていただきました。でも、学生時代からもう四半世紀以上のキャリアがあることになるのに、いつまでたっても詩吟がうまくなりません。
 私の詩吟の流派の教えの一つに「一品二魄三声四節」というものがあります。発声や節調よりも品位と気魄が重要である、との意です。
 教師としての私も、詩吟でいえば、まだ「三声四節」を改善する段階で、小手先のテクニックの改善向上に汲汲としているところです。

 いつになるかわかりませんが、いつかは、「一品二魄」の境地に到達したいと思います、と宣言し、筆を擱くことにいたします。