ディープ・アクティブラーニングをめざして

教育原理
2019.10.20

山本 宏(教育支援機構 教職教育センター 嘱託助教)

(1)アクティブラーニングの落とし穴

 2015年の中教審答申をきっかけにして波及中のアクティブラーニングですが、教育方法学の分野では、ともすれば有意義な議論にたどり着けずに終わったり、グループ課題を他人任せにする学生が現れたり、あるいは「アクティブだが教育効果の乏しい授業」となる危険性なども指摘されており、いかにして学生の主観的な達成感と実質的な教育効果の両方を同時に実現するかが課題だとされています。

 そうしたなかで近年注目を集めているのが、ディープ・アクティブラーニング(DAL)と呼ばれる教育方法です。DALとは「学生が他者と関わりながら、対象世界を深く学び、これまでの知識や経験と結びつけると同時にこれからの人生につなげていけるような学習」であり、その実現のために①意味を追求する深い学習、②原理化・一般化された深い理解、③時間を忘れて没入する深い関与の3条件が挙げられています(松下 2015)。以下では、この枠組みを用いて授業「教育原理」の改善を検討していきたいと思います。

(2)「教育原理」の概要

 「教育原理」は後期開講の教職課程の選択必修科目で、受講生平均36名のほとんどが2年生です。前期開講科目である「教育学序説」の内容を踏まえ、不登校、体罰、ゆとり教育といった教育の現代的論点についてディスカッションを行いながら教育の思想や理論を学んでいきます。

(3)ディスカッションの概要と課題

 ディスカッションでは、モラル・ジレンマと呼ばれる方法を応用しています。これは容易に白黒をつけにくい道徳的葛藤状況に参加者を誘うことで討議を深化させる方法で、例えば体罰・懲戒の是非に関する討議では、常識的枠組みを揺さぶるために途中で体罰肯定派教師の切実な訴えや、懲戒の結果自殺した生徒の自筆の遺書の写しなどを配布します。そうするとカジュアルな議論から一転して教室が静まりかえり、ぽつりぽつりと「深い学習」が開始されていくのが体感できます。

 講義終了後も学生が討議を自発的に継続したり、教員の説明途中に学生から生産的な発言が投げられるようになれば「関与」面での深化を感じられますが、グループやクラスのなかには本音を出しにくい空気がなかなか解けない場合もあるため、今後それをほぐすためにアイスブレイクという方法を試してみようと考えています。

(4)期末課題の概要と課題

 後期は終盤に約一ヶ月の冬休みを挟むため、その期間を利用して、デューイ=キルパトリックのプロジェクト学習法による期末課題を進めています。具体的には、これまでに学んだ教育の思想や理論を踏まえ、自由に課題を設定して自身の教育原理の再構築を行うというもので、グループベースで議論し、課題設定に応じて教員が推薦した書籍を各学生が2冊以上要約したうえで実践を行い、冬休み明けにプロジェクト報告会を行ったうえで、個々人で期末レポートを完成させます。

 本課題は教育学講義の集大成であると同時に、中学・高校で用いられるプロジェクト学習法の実体験的な効果検証も兼ねているのですが、自由度が高い分「お遊び」化のリスクもあるため、方向性の確定には教員も参画しています。

 その結果、例えばあるグループでは、冬休み中に恩師を尋ね、当時の自分に対する印象や、学級運営の苦労話についてインタビューを行うことになりました。同僚見習の立場で恩師と対話することが、学生の教育観に強い影響をもたらすことは私にとっても発見でした。

 他のグループでは、実はみな第一志望の大学に不合格だったとのことで、第一志望校に足を運んで自身の来し方行く末について思いを巡らせた後、同じ境遇で傷ついている生徒に何を学ばせられるか等について検討しました。

 生徒に善行を求める前に、まずは教師自身が模範となるべきだといって、21日間、毎日異なる「一日一善」を続けてその顛末を記録したグループもありました。物怖じしてしまう自分に苛立ち、お節介や自己満足ではないかと思い悩むなど発見は多く、周囲との関係が好転するといった副次的効果もみられました。

 期末課題ではDALの3条件のうち「深い関与」の面は概ね良好ですが、「深い理解」の面では、個別の学びに充足して自身の教育原理の再構築にまで至らない学生も少なくないため、今後報告会での質疑などを工夫したいと思っています。

 

*松下佳代[編著]『ディープ・アクティブラーニング─大学授業を深化させるために』勁草書房、2015年。