「1時間・1感動・1理解」のための努力と工夫

教職概論、生徒指導論
2019.10.19

八並 光俊(理学部第一部 教養学科 教授 神楽坂・葛飾・久喜地区教職支援センター長)

私の立場と専門

 私は教職課程の担当であり、教職の専門科目では教育実習等の他、1年生対象の「教職概論」と3年生対象の「生徒指導論」を担当しています。また、大学院の科学教育研究科において、「生徒指導情報論」と「教育統計分析法」という教職関係の科目を教えています。学部では,理学部第二部学生も教えています。この他、神楽坂・葛飾・久喜地区教職支援センター長をしています。私の専門は、生徒指導です。生徒指導は、学校現場ではいじめ・不登校・暴力行為・児童虐待・薬物乱用等の児童生徒の問題解決と、一人ひとりの児童生徒の個性と社会性の育成を目指して行われる教科指導と並ぶ重要な教育活動です。これまで文部科学省の視学委員(教育行政への助言)や研究協力者、現職教員研修講師を歴任し、現在学術団体日本生徒指導学会の副会長をしています。以下で、私の専門である「生徒指導論」の授業について、どのような工夫をしているか簡単に説明したいと思います。

 

シラバス=授業⇒外部評価

 「生徒指導論」の学習内容は、教員免許状の取得だけでなく、教員採用試験や卒業後の教員生活に直結するものです。そのため、常に最新情報を提供し、15回を履修すれば学校現場の初任者研修に匹敵する知識は得られるように心がけています。講義という性格上、1回の授業で1テーマという設定です。半期の間に、2回の学習定着度のテストを実施します。当然ですが、「シラバス=授業」なので、本授業で育成したい学生のコンピテンシーが何か、教職にとってどう役立つのかを明示し、各回では〔準備学習・授業内容(90分講義)・復習〕という3本柱を、具体的に記述しています。準備学習や復習は、授業で使用するテキスト内容の要約だけでなく、授業テーマに関連した最新情報をインターネットからダウンロードするようにしています。教える側としては、シラバスは対学生だけでなく、同業の大学教員・文部科学省・教育委員会・学校関係者・学生の保護者や第三者が閲覧した場合を想定して作成しています。つまり、専門家や一般人からの外部評価に耐えうるかということに注意を払って作成しています。この他、本授業では、学生が公平かつ客観的な評価が保証されていると思えるように配慮しています。

 

3Rsの徹底と学生理解 

  授業成立の条件整備では、“3Rs”を徹底しています。この3Rsとは、私が2009年にアメリカ国務省の次世代のリーダープログラムで、アメリカ横断中にある天才児教育の学校の教室に掲げられていた標語です。Rule(規律)・Responsibility(責任)・Respect for Others(他者への尊敬)の3つのRです。これは、学生の学びの姿勢や集団としての雰囲気形成にとって重要だと思います。「規律」では、シラバスで時間厳守、私語や内職の禁止など明示しています。「責任」では、授業は全回出席を前提としているため無断欠席は容認しない旨明示しています。「他者への尊敬」に関しては、二部学生も含め家庭環境、生育歴、年齢、生活経験、発達、進路希望に多様性があるので、学生相互の尊敬を授業では強調しています。

 一見すると、厳しいようですが、本学学生は真面目な学生が多いので、徹底すればチャイムと同時に、静かにビシッと授業開始ができます。教える私は、なるべく早く教室に行き、自分自身が遅刻などしないようにしています。また、その時間を利用して、学生に声をかけて、なぜ理科大にきたのか、なぜ教職を希望したのか、将来どうしたいのか、あるいは、趣味は何かなどを聞いて、学生理解を深めるようにしています。

 

1時間・1感動・1理解

  私が最も授業で心がけているのは、1時間の授業で学生が感動する何かを残すようにすることです。つまり、「1時間・1感動」という点を意識しています。そのためには、常にインターネットで最新ニュースを読み、関連テーマのキイワードで長時間検索をするなどしています。また、学生の中には、授業テーマに関連する経験、たとえば校内暴力を経験した、不登校になったなどの経験者がいます。本人の許諾が得られれば、20分から30分程度で、体験談を話してもらいます。その際は、パワーポイントでプレゼンをしてもらいます。この他、3年生の場合は、翌年度に教育実習・教員採用試験・大学院受験を控えているので、タイミングをみて4年生の先輩や院生に体験談を話してもらいます。授業とは直接関連はしませんが、非常に興味をもって聞きます。

 また、「1時間・1理解」を達成するために、「要点整理」という資料を学生に毎回配布しています。これは、B4版1枚の左半分に90分での講義内容の要点整理が、右半分には準備学習、復習、MEMO・事務連絡が記載されています。学生は、まず次の授業の要点整理を受け取り、準備学習を自宅で行います。授業では要点整理のKey Words欄を埋めることで、基礎知識の定着を図ります。授業後は、自宅で復習と次のテーマの準備学習をするように配慮しています。この要点整理の書き込みは、テスト時にチェックをします。

 

教師の自己開示と学生への賞賛

  自分自身が学部生や大学院生だった頃、何を思い、なぜ大学教員になったのか、どのような生活や勉強したのか、大学教員になってから、どのような経験や努力をしてきたのか自己開示するのも効果的だと思います。また、学生に対しては、他学生の見本になる言動や個人内での努力によるポジティブな変化を褒めることを心がけています。学生は、皆の前で褒められることで、格段の成長を遂げます。また、周囲の学生も、友人との相対比較によって、自分を内省することができます。最後に、学生には、“I’m not perfect, but I’m OK.” という精神で、すぐにあきらめたりせずに、真摯に学び続ける人間が教師に向いていると、話をしています。