~教育文化としての少人数クラス~

2019.10.17

村上 学(基礎工学部 教養 准教授)

 『FD通信』の原稿ですが、他の先生方に紹介できるようなことがあるのか、たいへん心もとなく感じます。なるほど、「授業改革」は基礎工学部が採択された文部科学省「現代GP」事業の推進中に、たとえばICT技術を使用した「グループディスカッション」「ブレンデッドラーニング」「コンピテンシーの活用」「授業の録画/教材化」など、あれこれやってきました。ちなみに、最近のカリキュラム改変の議論等で聞こえてくる「クロスディシプリン」も基礎工学部・長万部発の造語(文部科学省「大学推進プログラム(平成22年度)」申請書)です。「融合実践型」の人材育成を志向する、異なる科目・分野どうしはもちろん、OBの経験や事務職員など様々な異なるカテゴリーを「掛け合わせ」た教育機会の旗印でした。

 そうした試みの中、一部の方には拍子抜けかもしれませんが、今回は「少人数クラス」を授業改革としてご紹介します。紙幅の関係で詳細は割愛しますが、教養科目で少人数クラスの経験が無く、その価値評価も低いらしい理科大生え抜きの先生がいらっしゃいました。どうも一般の講義との比較の中で受講者の多寡の違いだけを想像されたようですが、それも理科大の教育文化の一つかと訝ったことが契機になっています。それならば、少人数クラスの実現はFDだろうというわけです。

 さて、現在担当科目の2/3を少人数化させてもらっています。正統なゼミ形式で行う「テキスト講読−ディスカッション型」の少人数クラスは他の先生が実施されていまして、私はバリエーションを出すためにも、また、目指す教育目標に応じた工夫の必要からも(1)複数教員参加によるテキスト講読−ディスカッション型、(2)ディスカッション特化型、(3)ライティングクラスを開講しています。

 (1)複数教員参加型とは、具体的には2名の教員が学生と一緒にテキストを読み議論するゼミ形式のクラスです。担当学生が一定の範囲のレジュメを切ってくるのはゼミのオーソドックスな形式で、それを元に社会学の専門家と哲学・倫理学の専門家とが丁々発止、学生も加わって議論します。複数の専門家が入ることで、議論の水準を下げないだけでなく、学生が「クロスディシプリン」の現場を体験する機会にもなっているはずです。

 (2)ディスカッション特化型は、議論の演習を繰り返し行うクラスです。ずっとブレンデッドラーニングの手法を使用してきましたが、今年度はさらにテキストを使ってのアクティブラーニングを実施しています。学生はまず、クリティカル・リーズニングのテキストを事前に読み練習問題も解きます。その上で担当者となった学生が各テーマのレジュメや練習問題を作成。授業ではその担当学生がレジュメで簡単にテーマの内容を説明(教員は補足や修正をします)。次に別の担当者が作った練習問題を参加者全員で検討し(問題がテーマに合っているかの判定も含む)「批判的思考」の徹底的な演習の機会とします。ただし、教員にとってもその問題は初出ですので、学生を出し抜くにはかなり体力(?)が必要です。

 (3)ライティングクラスは作文の「いろは」から初めて、繰り返し添削、最後にはまとまった文章が書けるところまで指導するクラスです。受講者は、希望してくれた学生のうち「書けない」順に十数名の受講者を許可しています。このクラスの成果は「大学基準協会」のレポート(2013年度)で特記事項に挙げていただきました。

 以上の例は、授業のカスタマイズの容易さを示していると考えます。「少人数クラス」が教育の仕掛けとして万能であるわけではもちろんないでしょう。しかし、教えたいこと、学ぶべきことがはっきりしていれば、その目的に応じた適切な方法の採用とともに、主体的な学びの仕掛けも容易です。この点で「世界の」理科大の教養の一つの形の候補として、他大学と比較する以前に、既に他学部でも開講が進んでいるとも聞きます。「多様性(ダイバーシティ)」を持つ少人数クラスの設置がさらに進んで、今後は本学の「教育文化」にさえなると好いなと勝手に思う次第です。