〜LETUSによる反転授業の試み〜
満田 節生(理学部第一部 物理学科 准教授)
物理学科の1年必須専門科目(後期)の「物理学」は、その成績評価まで含めると、その目標が達成されたと思えるにはなかなか至っていない担当授業の一つです。そういった背景もあり、FD通信29号で「大学授業デザインの方法」の記事[1]に書きましたように、教育工学の専門家の支援をうけて自身の授業を振り返るワークショップに参加し、(i)(一方通行の)講義形式の授業方法を可能な限り辞めて、(ii)学生が能動的に授業に参加する仕掛けを取り入れ、授業中に小テストや演習を実施することを目標にして、今年度の後期に「物理学」の授業改善を進めてみました。言うまでもなく、それらを実現するためには、(理工系の定番である「講義と演習の組」から構成されている授業を除くと)半期15回の講義形式が前提の対面授業の中だけでは、時間が絶対的に不足してしまいますが、その問題を払拭するために、反転授業の手法を部分的に導入してみました。
反転授業は、授業で(知識伝達のために)これまで説明していた内容をビデオクリップ化して授業時間外にオンラインで予習できるように変え、これまで授業後に自習(復習)していた内容を授業中の議論や質疑によって学習するように変える、従来の学習形式を「反転」させたものです。今回の試みにおける反転化の実際ですが、目標(i)については、自身の振り返りというFDの文脈で昨年度の物理学の毎回の授業をビデオ収録していたため、そこから動画を切り出し編集して10分程度の内容としてまとまりのあるビデオクリップを作成し、その内容に対応するPDF講義資料とともにLETUSに載せて視聴させ、それを踏まえたオンライン確認小テストに答えるまでを、「事前オンライン学習」として学生に求めました[2]。目標(ii)については、「対面授業」において、詳細な計算が必要ではない概念的な理解を促進するような問題をペアーで議論させ、授業者により問題に対する考え方を全体で共有し、改めてペアー間で相互に説明し合い、さらにそれを相互に評価するといったペアーワークの要素をできるだけ入れてみました。『対面授業におけるアクティブ・ラーニングは人文社会系では展開が容易であるが、基本的な知識修得が前提となる理工系では困難であり「理解できればそれで十分」である』という思い込みが以前にはありましたが、[3]の事例を知り、理工系でも必要な時間をかけ、適切な題材とタイミングを選べば効果があることを、(反転化していない)別の担当授業である「物性論2B」[4]で実感したことが、ペアーワークの要素を導入した理由です。
初めての試みなので、自転車操業で試行錯誤しながら半期を終えようとしているというのが実感ですが、収穫は、反転化のプロセスで、これまでの1回分の講義を学習要素に分解して構造化することが迫られ、「これまでの授業のどの部分がビデオ学習による知識伝達で十分であるか?」、「その知識伝達を前提にした時に、授業のどの部分が、教室で学生同士が議論し授業者がさらにもう一歩先の説明を加えると、より効果的になるのか?」について分析ができたことだと思っています。アンケートによれば、ビデオクリップからなる事前オンライン学習マテリアルが復習にも使え、学習者が落ち着いた環境で何回でも視聴できる特性やペアーワークを評価する声がある一方で、3年生向け「物性論2B」[4]の30人に比べ100人規模の1年生に対してペアーワークを実施することは正直かなりやりづらかったという自身の印象通り、反転授業の満足度については反応は幅広く、多様な学生に対応できていない状況があることは確かなようです。その意味で、授業者の力量不足は明らかではありますが、自由度の高い授業展開が可能である点からも、今後も試行を続けて見たいと思いました。
最後に、反転授業は、その名前から全てが反転すべきという印象を与えますが、その本質は授業者と学生が同じ時空間にいる対面授業のあるべき姿をICTを活用して追求することにあり、 必要性に応じた部分的な反転化が効果的であると感じています。
【リンク先一覧】
[1] FD通信29号:「大学授業デザインの方法~1コマの授業からシラバスまで~」