私の授業改善

2019.10.15

柳田 昌宏(理学部第一部 数理情報科学科 准教授)

 中教審の平成24年8月の答申では、大学に「課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)」を行う「双方向の講義、演習、実験、実習や実技等の授業を中心とした教育」を求めています。ちなみに「アクティブ・ラーニング」とは「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」です。
 私の所属する学科では、双方向的な教育を行う3〜4年次のゼミに向けて、1〜3年次の講義が準備されています。ゼミにおける専門的な学修には多くの基礎的な知識が必要です。それらを限られた時間で学生に身に付けさせるには、教員が前に立ち学生に説明する、いわば従来型の講義が最も適していると私は考えます。しかしここで改めて言うまでもなく、この形式は学生の意欲をいかに高めるかが非常に困難であり、教員がどれだけ教えても学生に残るものが少ないのでは、敢えてこの形式を選ぶ理由がありません。

 「まるで家で寝転んでテレビを見ているかのよう」―10年近く昔に退官された私の恩師は、授業中の学生をこう評していました。これはまだスマートフォンが普及する以前の話ですから、今の様子をご覧になったら一体どのように仰るでしょうか。それはさておき、この比喩は、学生のぼんやりと話を聞いている様を表しているだけでなく、教員と学生がまるで別の空間にいるかのような、あの一体感の無さをうまく描写していて、まさに言い得て妙だと私は思うのです。

 唐突ですが、最近の音楽業界では、CDや音楽配信の売上が減少しているのに対して、ライブからの収入が倍増しているのだそうです。インターネットの動画サイトにアクセスすれば、そこではプロやセミプロが作品を公開していて、いつでも無料で手軽にそれらを楽しむことができます。そのような環境にあって、現代の若者達は、歌や演奏を生で見て聞いて、出演者や、連れ立った友人や、周りの他の観客と一緒に盛り上がることに、高い価値を見出だしているのです。初めて会場に足を運んだ人は、熱気溢れる会場の雰囲気に、きっと圧倒されることでしょう。
 私は、この状況にこそ、授業改善のヒントがあるような気がします。今時の学生は、携帯電話でSNSを利用して、常に友達と繋がりあっています。そんな彼らは、ネットワーク越しという間接的なものでない、実物を見て聞いてという直接的な情報伝達にこそ、強く心を揺さぶられるのではないでしょうか。
 そこで、私は日頃の授業において、学生に直接「熱」を伝えることに注力しています。私の学問への情熱が学生に少しでも伝わるよう、ただ淡々と話すのではなく、ひたすら熱く語りかけることによって、単なる自己満足かもしれませんが、少しずつではありますが、回を追うごとに学生の「温度」が上がってきている気がします。

 「教壇では『アカデミック・エンターテイナー』であれ」―これもまた私の恩師の言葉です。師匠の域にはまだまだ遠く及びませんが、始めは背もたれに身を委ねていた学生が、いつしか身を乗り出して聞き入っているような、あの熱気溢れる講義こそが、私の目標です。教員と学生とのあの一体感を、私の授業の教室にも生み出せたらと思い、奮闘し苦悩する毎日です。

 ICTを用いた様々な授業改善の手法が提案されている昨今ですが、ICTに浸りきっている現代の若者達には、このような昔ながらの切り口こそが効果的であると、私は信じています。