私の授業改善
由井 宏治(理学部第一部 化学科 准教授)
「授業改善」。執筆依頼が来て正直困ってしまいました。改善というと、話にbefore, afterがあって、改善によって何が良くなったかという問題解決のストーリーがあるととても書きやすいのですが、本学に着任して8年目、実は基本スタイルは大きくは変えていないように思います。ですので「改善」というよりは「工夫」というニュアンスで、私が担当している2つの科目について、紹介させていただきます。
1年次「物理化学I及び演習」:補助資料作成とその活用
この科目は数式や偏微分記号が多くでてきます。偏微分記号は小さな添え字がよく付きますので、大きな教室ですと後ろに座っている学生さんから「見えません」と頻繁に言われかねません。黒板の字が見えないストレスは、隣との私語や話への集中力の低下など、いい結果を招きません。そこでこのようなストレスを軽減し安心して話に集中できるよう、授業は全てパワーポイントにして、投影するスライドを毎回資料として配布しています。手元に投影画面と全く同じ資料があるので、安心して話に集中できるようです。
一方でエコの時代。むやみに紙資料を配るわけにもいきません。そこで資源の無駄を省くため、A3 の紙1枚を24コマに分け、その日の項目全てが収まるよう、要点をおさえて作るよう心がけました。当初エコ目的でしたが、結果としてはこれが短期間に要点を効率良く復習できる補助教材になっているようです。4年生や卒業生から、公務員試験や会社に入って物理化学の知識が必要になったとき役に立っています、と声をかけられることもあり、作って良かったと思う瞬間です。
しかし、喜んでばかりはいられません。あるとき学生から「パワーポイントの授業は手を動かさないし、プリントがある安心感で眠くなる」とクレームがつきました。そこで毎回、B6の小さな紙を配り、授業中に問題を1,2問出して解かせるようにしました。そこにさらに質問や感想などを書いてもらって、毎授業の終わりに回収するようにしました。初めは、眠気防止と知識定着を狙った策でしたが、質問や感想などから、その日の学生の理解度や要望が分かり、すぐ次の授業の内容にフィードバックできるようになりました。授業用アンケートですと、年間に行える回数がどうしても限られますが、この方式ですと1週間単位で、学生の理解度に応じたフィードバックがかけられます。
本授業は約120名の学生を相手にしていますので、残念なことにほとんどの受講生の名前と顔は一致しません。しかし、いつも鋭い質問や、面白い感想を書いてくる学生さんなど、顔は分からなくても、この小さな紙面から受講生の個性が垣間見れることもあり、授業が双方向になり楽しい側面を生み出しています。ここに書かれた質問や感想は、現在出版準備中の物理化学の教科書を執筆する際の貴重な財産にもなっています。
3年次「溶液界面化学」:院生による実際の研究現場における応用例の紹介
本授業でも数式が多く出てくるため、先に紹介したA3プリントとB6問題&質問プリントを使っています。受講した学生さんから、他科目になかった、と言われる工夫は、私の研究室の院生に、授業の最後の15分間に、その日の授業内容と絡めた自身の研究の話をしてもらっていることです。研究室配属を間近に控えた学生さんから、授業内容が机上のものだけでなく実際に研究に活きるんだ、という手ごたえだけでなく、もう間もなく始まる研究室生活が垣間見れて楽しい、役に立った、という感想が多く寄せられます。思わぬ副産物としては、担当に当たった院生が3年生にも分かりやすいよう噛み砕いて説明したり、難しい話にはたとえ話を入れる工夫をしたりと、実は院生側のコミュニケーション能力向上のための訓練にもなっているようです。なかなか毎回分とはいきませんが、この試みは好評ですので、今後も出来うる限り続けていこうと思っています。