2022年前期:「線形代数学1A及び演習」

2024.09.09
●授業担当教員

 八森 祥隆(創域理工学部数理科学科 准教授)

●数学を専門とする学科の初年次の授業

 「線形代数学1A及び演習」は、1年前期の専門基礎の必修科目です。理工系の学科で必ず学ぶ科目ですが、数理科学科ではその後に学ぶ全ての数学の基礎のひとつとなるため、水曜の2限を講義、3限を演習の時間として、学習内容の確実な定着を図っています。また、演習では学科が独自に作成した冊子を使用しています。今回は、講義のほうを見ていただきました。

 この授業で心掛けていることは、なにより、証明の過程の丁寧な説明です。学生の大多数は高校までの学習で「きちんとした証明」にほとんど触れてきていない一方、緻密な論理的思考の経緯を人に分かるように整理して表現することは、そのような思考を行うこと自体の(即ち数学をする)ためにも不可欠な手段です。それを理解し、かつ、自力でできるようになることを願い、「正しい証明」のお手本を(繰り返し)提示しようと思っています。定理とはおよそ「任意のaについてP(a)が成り立つ」、「あるaが存在してP(a)が成り立つ」、「AならばBである」などの基本的な命題の組み合わせなので、各ステップの基本的な形の命題の主張そのままのことを示すこと、また、地道な、ある意味明白でつまらない議論の積み重ねをなるべく行間を空けずに説明すること、を意識しています。

 数理科学科では、他学科研究室に参加し理工学諸分野での数学の応用面を学ぶ「ダブルラボ」というカリキュラムを実施しています。協力して下さる他学科の先生方からは、数学をきちんと学んだ人材との融合・連携への期待をしばしばうかがいます。とはいえ、この授業の方針がその目的に有効であるのか、自信はありません。

 参観後、授業改善に有益ないくつかのご指摘をいただきました。授業の終わりに具体的な復習の指示(教科書を読んでおく、練習問題の指定など)があると、学生の能動的な学習を促しやすいというアドバイスは、早速実行しようと思います。授業中の学生の様子なども教えていただき、自分の授業がどう見えているか客観的に知るよい機会となりました。

●評価・分析者

 教育DX推進センター TL部門長/教育支援機構教職教育センター 教授 渡辺 雄貴

●評価・分析内容

「授業改善のためのアンケート」結果に基づく学部選定授業を見に行く ―きめ細かな授業実践を教授理論から考える―

 学習していると,「何がわからないかわからない」状況に陥ることがあります.私たちの扱う,理系科目はとくに,階層的な知識構造になっており,どこから復習すれば良いのか,何に関連する知識なのかを知らない限り,問題を解くような「手続き」を暗記して「できる」ようになったとしても,それが「わかる」といった状況になったとは言えなません.すなわち,問題演習を繰り返すことで受動的に「できる」ようになったとしても,「わかる」という状況とは程遠い場合があります.

 授業で先生は,学生の既有知識はどのようなもので,どこから話しをはじめれば,既有知識の構造に,新たな知識を構築出来るかを考える必要があります.授業中に先生がするべきことは,新しい知識を提示するだけでなく,前提知識を確認したり,今日は何を学ぶのかを確認したりと,たくさんのことがあります.それらをまとめたものが,ガニェの9教授事象です.ガニェは,学習者の注意を喚起し,学習目標を知らせ,何を知っているかという前提条件の確認をするように述べています.

 今回の「学部選定授業を見に行く」では,創域理工学部数理科学科の八森祥隆先生の授業である「線形代数学1A及び演習」を取り上げます.授業の様子は,YouTubeにもアップロードされていますので,ガニェの9教授事象とともに授業はYouTubeを通して参観して頂ければと思います.

東京理科大学公式YouTubeチャンネル)

 授業の冒頭では,前提知識の確認や授業の目標がなされています.このように,新たな知識を90分話すだけではなく,丁寧に知識を伝えていくのが,良いのではないでしょうか.

 

[インタビュー日:2024年6月5日]