2021年 前期:「ゲーム理論1」

2023.10.20
●授業担当教員

 梅澤 正史(経営学部ビジネスエコノミクス学科 教授)

●授業参観を受けて

 経営学部ビジネスエコノミクス学科2年生必修科目「ゲーム理論1」を担当しています。この度、2021年度の「授業改善のためのアンケート」結果に基づく学部選定授業に選定され、教育工学がご専門の渡辺雄貴先生に授業参観及びインタビューをしていただきました。

 授業参観の依頼を受け、事前に私が授業で気を付けていることを書き挙げてみました。それは、「できるだけ日常的な言葉で直感的に理解できるように説明する」、「可能ならば何通りかの方法で説明する」、「例を用いる」、「配布資料は授業後に読んでも分かるように詳細にしつつ、端的に伝わる簡潔な資料にする」といったものです。その他、視覚的な表現のほうが理解しやすく内容を整理する助けになるのではないかと思い、「可能な限り図を使って説明する」ということを心掛けています。

 授業参観後、渡辺先生から多くの参考になるコメントをいただき、また先生との対話を通して色々と気づきがありました。大きく分けて2点あります。1点目は、一方向的な授業にしないための工夫についてです。上述の私が授業で気を付けている点は、内容を分かりやすく伝えるためのいくつかの取り組みにすぎません。伝える工夫だけではなく、学生の授業への参加を促す工夫も必要で、授業中に学生からの反応をもっと得たいと思いつつもなかなかできないでおりました。学生同士での議論・やり取りをする時間を設けることによって学生からの反応を得るいくつかの工夫について教えていただきました。2点目は、配布資料についてです。私はいかに分かりやすい完全な(?)資料を作るか、という点に注力し準備していました。それは必ずしも悪いことではないとも思いますが、完全な資料を配布すると学生は安心し、かえってノートを取らずにボーっと聴く可能性もあります。学生が能動的に授業を受講するには、「配布された資料だけだと不十分だから、工夫してノートを取らないと」と思わせるようにする工夫も大事であるということを改めて教えていただき、自身の資料にはまだまだ工夫すべき余地があることに気づきました。

 早速、今後これらの点を取り入れていきたいと思っています。渡辺先生、貴重なコメントありがとうございました。

●評価・分析者

 教育DX推進センター TL部門長/教育支援機構教職教育センター 教授 渡辺 雄貴

●紹介内容

「授業改善のためのアンケート」結果に基づく学部選定授業を見に行く

―きめ細かな授業実践を教授理論から考える―

 

 「わかりやすく伝える」ということは、どの先生方も考えて授業設計を行っています。授業設計(インストラクショナルデザイン,Instructional Design,ID)は、「効果」「効率」「魅力」を高めるための手法や、モデルを集大成した学問領域としてあります。その中でも、メリルのID第一原理というものがあり(Merrill 2002)、5つ星の授業の要件をまとめています。これによると、5つの要件があるとされています(下図)。

 具体的には、以下のようなものです。

1.問題(Problem):現実に起こりそうな問題に挑戦する
 ●現実世界で起こりそうな問題解決に学習者を引き込め
2.活性化(Activation):すでに知っている知識を動員する
 ●新しく学ぶ知識の基礎になりそうな過去の経験から得た知識を思い出させ、関連付け、記述させ、応用させるように仕向けよ
3.例示(Demonstration):例示がある(Tell me でなく Show me)
 ●新しく学ぶことを単に情報として「伝える」のではなく、「例示」せよ
4.応用(Application):応用するチャンスがある(Let me)
 ●学習者の問題解決を導くために、誤りを発見して修正したり、徐々に援助の手を少なくしていくことを含めて、適切なフィードバックとコーチングを実施せよ
5.統合(Integration):現場で活用し、振り返るチャンスがある
 ●学習者が新しい知識やスキルを日常生活の中に統合(転移)することを推奨せよ
                                   (訳:鈴木 2015)

 今回は、経営学部ビジネスエコノミクス学科の梅澤正史先生の開講する「ゲーム理論1」を参観して、このメリルの第一原理のことを思い出しました。授業の中では、現実的で学生に身近な話題を取り上げながら説明がなされます。また、演習とも組合せながら、応用することを求めています。梅澤先生もインタビューの中で、「できるだけ日常的に使う言葉を使う」、「直感的に理解できるように説明する」ということを心がけながら授業をしているとおっしゃっていました。

 しかしながら,学生にとって難しい問題も存在します。その場合も、「別の方法でも説明する」、「できるだけ平易な例を用いて説明できるものは、そのように追加説明する」等様々な工夫が見られました。さらに、スライド形式で進む授業の中で配布するハンドアウトも、授業後に読んでわかるように詳細なものになっていますが、授業でも伝わるよう工夫が見られました。

 学生にとって,どのような授業がわかりやすいかは、学生、学年、入学年度によって異なります。しかしながら授業という対話の中で、どのような授業がより良いかを模索していく姿勢を、梅澤先生の授業から窺い知ることができました。こういった授業は、きっと学生にとっても有益なのではないでしょうか。

 

           ID第一原理(Merrill 2002)

 

[インタビュー日:2023年6月20日]