2021年 後期:「構造設計法概論」

2022.12.26
●授業担当教員

 衣笠 秀行(理工学部建築学科 教授)

●改めて自分の授業を見つめ直して

 理工学部建築学科の2年生を対象とした「構造設計法概論」(必修科目)を担当しています。渡辺先生に授業参観をして頂き、授業の進め方等についてのアドバイスを頂きました。自分の授業を振り返り、注意している点や工夫している点をまとめると同時に、この機会を活かし、今後の改善点などを考えてみました。先生方の参考になれば幸いです。
 講義において特に気を付けているのは、「興味を持ってもらう」、「達成感を与える」、「学生の集中力の維持」、の3つです。構造設計法概論は建築学科の学生が、我が国の建築耐震設計について体系的に学ぶ最初の講義です。このため特に第1回目の講義では、学生がこの科目に「興味を持ってもらう」ことに重点を置いています。この講義を受けると半年後に何が分かるようになるのか(受講の必要性・到達点)を伝え、また、実際に被災地で撮影した地震被害スライド等を見せ、地震の恐ろしさ・社会に対する影響の大きさを理解してもらい、「社会を守るのは君たちだ」的な使命感を与えるようにしています。
 毎回の講義では、「達成感を与える」ことと「学生の集中力の維持」に心がけています。毎回の講義の最初に、この回の講義で習得できること(到達点)を示し、目標達成を確認できる課題の提出を求め、講義後に到達感を感じてもらえるよう工夫しています。また、講義の時間中に学生の皆さんに集中してもらえるよう、必ず自分の講義ノートを作成するように指導し(教育効果も高いと思っています)、また、毎回の課題は、講義を聞いておれば楽に回答できるが、居眠りなどして聞き逃すと提出できないようなものにしています。
 授業後に渡辺先生から、講義内容と学生の興味との「関連性(Relevance)」を示すことで積極性を学生から引き出すことができること、これがない場合にはモチベーションの高い学生のパフォーマンがかえって低下してしまうことを教わりました。実はこれに関しては思い当たることがこれまでに何度かあり、直感的に私の授業の改善ポイントであると理解できました。その他、教育工学に関するお話も大変興味深く刺激になりました。改めて感謝いたします。

●評価・分析者

 教育DX推進センター TL部門長/教育支援機構教職教育センター 教授 渡辺 雄貴

●紹介内容

「授業改善のためのアンケート」結果に基づく学部選定授業の1つである理工学部建築学科衣笠先生による「構造設計法概論」を参観しましたので、グッドプラクティスを共有します。
 教育工学者としての役割は、良い実践を教授理論的に支え、学内の万人のものにすることですので、衣笠先生の実践を教授理論とともに考察していきます。
 「いたって普通の授業ですよ」と仰る衣笠先生が、授業におけるモットーとしていることは、「学生に興味を持ってもらい、自ら学んでもらえるようにすること」だそうです。そのようなお考えのもと展開される授業は、スライドを用いて進んでいくスタイル。はじめに、成績評価方法の確認、続いて、半期を通した授業の中での今回の授業の位置づけなどを説明し、実際の授業内容に入っていきます。
 授業の導入部分においてまず、大震災での構造物の層の崩壊画像、寺院の耐震補強など、実際の問題から入ることで、実際の問題を意識させています。「『想定外はない』、なんてことはない。何かを想定しながら、設計をする必要がある」という注意を与えながら(※)、今回の授業の到達目標を説明されていました。授業の到達目標は、課題を具体的に示し、どういったことができるようになれば良いのか具体的な内容を説明していました。最後に、最初に提示した課題に戻り確認を行うという流れでした。課題はLETUSにアップロードされており、計算を行い数値を入力すると正解か不正解が判定され、学生は指定された期間内(授業中)であれば、何度も挑戦することができます。
 教育工学者のメリルは、過去の教授理論の研究知見をまとめ、ID(インストラクショナルデザイン:授業設計)第一原理を発表しています(Merrill 2002)。そこでは、(1)Problem(問題):現実に起こりそうな問題に挑戦する、(2)Activation(活性化):すでに知っている知識を動員する、(3)例示(Demonstration):例示がある(Tell me でなく Show me)、(4)Application(応用):応用するチャンスがある(Let me)、(5)Integration(統合):現場で活用し、振り返るチャンスがある、の5つを挙げています(メリルは、この5つが揃うと5つ星の授業だといいます)。

図 メリルの第一原理

        図 メリルの第一原理

 今回参観させていただいた衣笠先生の授業は、全く「いたって普通」という授業ではなく、経験則の中でどのようにして、学生の興味を引き、集中力を維持しながら、実際の問題がとけるようになるかをよく考えられた授業でした。問題に何度でもチャレンジできるのも、学生の心理的安全性を担保しており、とても良い試みだと感じます。
 授業設計や学習意欲のデザインについては、第24回FDセミナーの動画教材で復習することができますので、合わせてご覧ください(学内のみ)。

URL:https://tus.app.box.com/file/1014377564261?s=si9tjyhcsqz4ojfb45ax7v4s6o6bga2a

※ジョン・M・ケラー(2010)学習意欲をデザインする-ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン,北大路書房

[インタビュー日:2022年11月21日]