2020年 前期:「線形代数学1」

2022.07.14
●授業担当教員

 田中 亮太朗(教養教育研究院 葛飾キャンパス教養部 准教授)

●改めて自分の授業を見つめ直して

 先進工学部1年生前期に開講している科目「線形代数学1」を担当しています。新型コロナウイルス感染症の影響で非同期遠隔授業を実施したこともあり、アンケート実施時の授業と、参観を受けた授業とは全くの別物となりましたが、当時と現在の授業について振り返ってみます。
 授業準備の際に一番大切にしたのは、計算練習の機会を確保することです。線形代数学の習得のためには、理屈がわかることももちろん大切ですが、なによりも、計算を通して行列の扱いに慣れることが重要であると考えています。線形代数学における計算は、方針が同じであっても、ちょっとした工夫の有無で計算量が大きく変わってしまうようなデリケートな作業です。いずれは機械に計算させることになるとしても、手計算にも習熟して、計算量に対するコスト意識を早期に養っておくことは、限られた計算リソースの中でシミュレーションを行うためにも必要なことと言えます。
 このような観点から、2020年当時の授業では、何回でも受けられる小テストを毎回用意し、満点をとるまで挑戦するようにルールを設定して、計算練習の機会を確保しました。実力に応じて反復回数が変化し、内容を習得するまで練習が終わらないため、環境が整ってさえいれば有効な方法です。一方で、この方法の弱点として、学生の時間的負担が大きくなりがちな点と、反復を前提とするため模範解答を示しにくい点が挙げられます。後者は、特に悩ましい問題でした。他にも色々と思うところがあり、結局このシステムは廃止してしまいましたが、まだまだ発展の余地はあったように思います。
 現在の授業では、時間内に計算練習を行えるよう内容を調整しています。証明等の込み入った議論は、すべてを授業で取り上げるのではなく、講義ノートに纏めて配布することで、興味の度合いに応じた解像度で線形代数学を学べるようにしています。演習の際には、計算を工夫した場合としなかった場合で、どれくらい計算量に差がでるのかを示し、効率よく計算することの大切さを説いています。今年度の取組の良否は未だ不明ですが、学生による審判(アンケート結果)を真摯に受け止め、今後も改善を続けていきたいと思います。

●評価・分析者

 教育DX推進センター TL部門長/教育支援機構教職教育センター 教授 渡辺 雄貴

●紹介内容

 学習目標の設定方法は「何を教えたいか」を重視するのではなく、カリキュラムの中での、当該授業の位置づけを考える必要があります。例えば、どのような学生が受講するのか、前提となる科目や後続する科目との繋がり、各学部学科で求められている力など、担当教員は、多くのことを総合的に考察し、授業の学習目標を設定しています。
 学習目標は、「○○を理解する」の形ではなく、「○○できる」といった行動目標で示すことで、可観測性のない表現となり、教員と学生のどちらにもわかりやすい表現にもなります。その際、どのような学力を求めているのかについては改めて考えることになりますが、ガニェは、学習成果を5つに分類できると述べています。1科目にこの5つ全てが入ることは少ないですが、1つというわけでもありません。定理を覚えて(言語情報)、応用的な問題を解く(知的技能)形は、みなさんも馴染みがあるでしょう。 田中先生は「工学系の授業は、理学系の授業とは異なり、定理の証明を中心的に教えるのではなく、計算ができるようになることを意識して授業を設計した」と授業を振り返っています。これはまさに、授業の位置づけを明確にした上で授業をされているように見受けられます。加えて、「東京理科大学に進学する学生の数学の学力は総じて高い」としながらも、どのような嗜好の学生が多いか観察し、学習内容の分析を行い、段階を踏んで深く教え、まずは手を動かせるようになることを心がけた結果と言えます。
 また、オンライン授業では、不慣れな中、試行錯誤をしながら毎回の授業と小テストを実施し、学生も各回のゴールを意識しながら授業に臨みました。一方、2022年度は対面授業を行い、学生の反応を見ながら授業できるようになったことを改めて認識されています。
 田中先生の「数学っぽく数学を教えるのではなく、幅広い視野を持てるようにしたい」というポリシーにもとづいた授業は、開始時の導入において、これから授業で学ぶ内容の意味やメリットなどを具体的に提示していることも、学生にとって有益であると言えるのではないでしょうか。

[インタビュー日:2022年6月23日]