2020年 後期:「幾何学1A」

2021.12.09
●授業担当教員

 新田 泰文(理学部第二部数学科 講師)

●私の授業を振り返って

 理学部第二部数学科1年生向けに開講されている必修科目「幾何学1A」(1年指定科目)を担当しています。この講義は2020年度の「授業改善のためのアンケート」結果に基づく学部選定授業に選定され、渡辺先生に授業参観をして頂きました。自分の授業を客観的な視点から見つめ直す良い機会になったと思います。そこで、自分の授業を振り返り注意している点や工夫している点を纏めてみました。先生方の参考になれば幸いです。
 2021年度の本科目はハイフレックス型授業、つまり対面と遠隔のどちらでも授業に参加できるスタイルで授業を行いました。対面での私の講義は、恐らく数学科においては極めてオーソドックスな全てをチョークと黒板で進めていくスタイルです。板書は白のチョークを基調に行い、強調したい箇所があるときのみ黄色または赤色のチョークを使用します。
 講義では、まず今回の授業で何を扱うのか、何が目標かを学生に提示して自分が今何をやっているのかを明確にしてから進めるよう注意しています。学生に学ぶモチベーションを持って貰うために、何らかの問いかけから授業がスタートすることもあります。目標に到達した際は、それをどのように使うか具体例を通して説明するよう心がけています。ハイフレックス型授業ではこれをZoomで中継するわけですが、まず基本的な注意としてカメラに合わせて使用する黒板の領域を区切り、遠隔でも板書が見やすくなるよう調整しました。板書は通常よりも文字を大きくし、モニターで授業を見ている学生にも板書の内容を把握しやすいよう工夫しました。その結果授業は少しゆったりとしたスピードになったのですが、学生からは寧ろ内容を理解しやすくなって良かったという評価を得ました。また、Zoomのチャット機能を用いて質問の受付を行いました。口頭では質問を出来ない学生もチャットであれば出来るということもあるようで、これも学生からは好評でした。
 授業後は渡辺先生にインタビューをして頂き、教育工学の専門家の立場からアドバイスを頂きました。改めて、自分の授業改善を考える良い機会になったと思います。

●評価・分析者

 教育開発センター 教育評価小委員会委員長/教育支援機構教職教育センター 教授 渡辺 雄貴

●紹介内容

 学内のグッドプラクティスを共有する『「授業改善のためのアンケート」結果に基づく学部選定授業を見に行く』。今回は、理学部第二部数学科新田先生による「幾何学1A」を参観しました。授業は学部1年生を対象とした専門科目で、ハイフレックス形式で実施されていました。対面で受講する学生が13名、オンラインで受講する学生が28名という割合でした。新田先生は、ノートPCで板書の字の大きさや、遠隔地での受講生を常に気にしながら授業を進めていらっしゃいましたので遠隔地で受講する学生も心強いと思います。新田先生は、数学科特有なこととして「きっぱりとものを言い切る」「正しい記述をする」と言ったことを重要視されて授業をされているそうです。
 さて、読者の皆さんは、教員免許をお持ちですか?新田先生はお持ちだそうですが、そもそも大学の教員に教員免許は必要ありません。一方で、教職課程を履修する学生は、様々な教授理論や方略を学びます。その中に、1コマの授業の進め方をモデル化した理論として、ガニェの9教授事象というものがあります(ガニェ 2007)。授業の流れをどう作るかといったもので、簡単に言うと、右表に示す9つの「授業でやること」が示されています。今回は、この9教授事象を基に参観した授業をお伝えしようと思います。
 まず、授業の導入でやることは、教授事象の1~3です。今回の授業では、前回までとは少し話が変わり「偏微分」に入ること、受講者からの質問などをもとに授業の序奏がはじまります(事象1)。授業の内容など、学習目標を提示し(事象2)、他科目で学習していることなどを踏まえて授業がはじまります(事象3)。授業の展開部分は、4~7です。新しい事項を提示する(事象4)のは、どの先生もされていると思いますが、先ほど紹介したように、学生の興味関心を獲得しながら授業を進めるといった工夫も必要でしょう。新たに教えたことが、どのように定着できるか、学習の指針を与えながら授業は進みました(事象5)。さらに、「幾何学1A」は演習科目がセットになった科目ですが、演習との関係性もあり、座学の授業では練習の機会、アウトプットはないものの、どのように学んでほしいかを学生に伝えたり、演習担当の先生と連絡を密にする(事象6、事象7)。最後のまとめでは、8と9が必要になります。2で提示した学習目標とともに、今日の授業を振り返ります(事象8)。さらに、保持(忘れないようにする)と転移(応用を促す)も忘れないでするのが良いでしょうか(事象9)。
 今回は、新田先生の取組を元に、教授理論から考察をしてみました。この授業がうまくいっているのは新田先生の取組に加えて、演習担当教員との連携や、学科ぐるみで開発しているテキスト、カリキュラムなど、様々な要因があろうかと思います。そうした積み上げ1つ1つが、良い授業に繋がっているのでしょう。

ロバート M ガニェほか(2007)インストラクショナルデザインの原理、北大路書房

ガニェの9教授事象

  1. 学習者の注意を喚起する
  2. 学習目標を知らせる
  3. 前提条件を確認する
  4. 新しい事項を提示する
  5. 学習の指針を与える
  6. 練習の機会を設ける
  7. フィードバックをする
  8. 学習成果を評価する
  9. 学習の保持と転移を促す

(ガニェ2007より作成)

[インタビュー日:2021年11月16日]