2018年 後期:「量子力学3A」

2019.12.25
●授業担当教員

 鈴木克彦(理学部第一部 物理学科 准教授)

●事前事後学習を増やす試み ~反転授業の観点から~

 大学生の事前事後学習時間の少なさは深刻な問題ですが、本稿では事前事後学習 を増やす試みをご紹介します。事前事後学習の不足は授業難易度が上がるほど深 刻な事態を招きます。私が担当する「量子力学3A」(選択必修3年)はその典 型例で、理解のために相当な自学が不可欠ですが、実情は程遠く単位合格率も 60%程度でした。対策として、小テストを頻繁に課し段階的な知識の定着を目 指したのですが、効果がありません。この方法は、個々の疑問点の解決や深い学びにつながりませんでした。
 そこで、2016年から反転授業を採用しました。毎週、学生は約20分のビデ オ講義を2つ受けてノートにまとめ、LETUSを通して電子的にノートを提出し ます。それ以外の課題はありません。その後の対面授業では演習を行い、理解を 定着させます。
 「ノートにまとめる」という事前学習により、家庭学習時間は本学全体の平均と 比べて大幅に増加しました(図)。興味深いことに、毎週レポートなどの事後課 題を課した授業では、事前事後学習はこれほど増えません(図の3段目)。学生 はビデオを繰り返し見ることで、「理解してまとめる」作業に予想以上に熱心に 取り組むことが分かります。履修者約70人に対し、途中で脱落する者は数人、 合格率は95%程度となり、以前とは格段の差です。最後に学生からのコメント をいくつかご紹介して、この報告を終わります。事前事後学習のあり方を考える 上でご参考になれば幸いです。

 I.M.さん『事前事後学習時間は反転授業を受けている分増えていると思う。事前 事後学習の時間は、ビデオ講義に関して自分のペースで講義を受けられるため、 曖昧な点で止まって調べたり、計算過程を埋めたりするため増加し、そのためよ り深い理解ができる。』

 A.Y.さん『宿題がレポートの場合には、分からなくて詰まったら時間がとてもか かる。それよりも授業が宿題となって、演習を授業時間内にできることは助かっ た。全ての授業がこのビデオ講義体制をとってしまうと、時間が足りなくな る。』

●評価・分析者

教育開発センター アドミッション小委員会委員長/教育支援機構教職教育センター/理学研究科科学教育専攻 准教授 渡辺 雄貴

●紹介内容

 鈴木克彦先生の「量子力学3A」は、選択必修科目で、理学部物理学科の3年生100名のうち74名が履修しています。授業内容は、理論系の内容で、座学の授業。この、大教室で行われる授業を反転授業に転換し、試行錯誤の中、今回の受賞となったそうです。反転授 業とは、履修者が学ぶ知識注入部分を授業の外に出し、対面授業では、演習やグループ活動、教員による個別のファシリテーションや指導を行うものと定義されています。知識注入部分は、オリジナルの動画であったり、OER(Open Educational Resource)であったり、教科書であったり様々な形態が考えられます。教授メディアが複数あることからブレンド学習と言われることもあります。 反転授業では、対面授業ではいきなり問題演習からはじまるため、履修者が必ず、事前学習を行わなくては意味のある授業ができないと言われています。反転授業の難しいところはまさにこの点で、履修者個々人が、どの程度事前学習を行い、それをどのようにチェッ クするかということが重要です。鈴木先生の授業では、事前学習は、LETUSにアップロードしたスライドと音声からなる講義ビデオを視聴することを課していますが、この確認方法がユニークでした。一般的にはLETUSのようなLMS(Learning Management System) 上のテストやクイズを用いることが多いですが、この授業では受講ノートの提出を課していました。受講ノートはWordでも、PDFでも、手書きのノートの画像でも、履修者の学習スタイルに合わせて自由となっていて、学生も様々なタイプのノートを提出していました。テストやクイズは、答えを共有したり、動画を見なくとも答えられる可能性もあることから、このような形態になっているとのことでした。ノートテイキングも重要な学習スキルだというのも納得できる方法でした。また、対面授業では、問題を与えて解かせている間は、学生は自由に隣の人などと相談したり、1人で解いたりという活動を行っており、鈴木先生は、机間指導に徹していました。机間指導では、学生の理解度を確認しながら質問に答えたり、自ら話しかけたりしながら、一方通行型の授業にはないコミュニケーションを取っていました。 70名の学生を対象にTAなしで演習をやることについて、最初は大変だったが、慣れてくれば気にならないと仰っていました。教師中心設計の一方通行型の授業から、学修者中心設計の授業への転換は、ハードルが高いですが、学修者の理解度は高くなっていると思います。鈴木先生の好例をもとに、学内でぜひ広がっていくことを期待します。

[インタビュー日:2019年12月16日]