「いかにして学生の手と頭を動かすか」

解析学1、数学研究1
2019.10.07

横田 智巳(理学部第一部 数学科 准教授)

 シラバスの充実、授業アンケートの実施、履修モデルの作成等は大学における現在のFD活動の標準となっていますが、単に分かり易い授業や親切なサービスを提供することが本当に学生のためになるのでしょうか。外部からの評価を全く気にしないわけにもいかないかもしれませんが、私は「学生の力を伸ばすこと」が最も重要であると考えています。そのために、「いかにして学生の手と頭を動かすか」ということを意識して、授業改善、学科のFD活動に取り組んでいます。

1.レポート

 私が担当している授業のうち、2年次の専門必修科目である「解析学1」の講義では、レポートを毎回実施しています。講義形態の授業では、各概念の説明や定理の証明が中心になるため、分かり易い解説をすればその場で納得できる半面、それで安心して何も復習しないと頭から完全に抜けてしまうことが良くあります。「あまり手をかけ過ぎるといつまで経っても出来るようにならない」といことは子育てだけでなく、大学生の教育にも当てはまる部分があると思います。それでは、分かりづらく難しい授業をすれば、学生は手と頭を動かして勉強するでしょうか?私が学生の頃は難解な授業になればなるほど、熱心に予習復習をする学生が(少なくとも現在より)多くいました。しかし、恵まれた環境の中でゆとりのある教育を受けてきた現在の学生では事情が大きく異なります。レポートを課さない授業に対する授業外学習の時間はほとんどゼロである、という学生が多数存在するのが実情ではないでしょうか。塾や予備校で与えられた課題をこなして入学してきた学生は、具体的な課題がなければ何をやってよいのかわからないのではないでしょうか。私は、学生が授業を受けただけで終わってしまうことがないように、講義で解説した証明のあらすじを書かせる問題、同等の議論を必要とする問題をレポートとして出題し、次回の授業開始時に提出させています。現在「解析学1」にはTAが1名ついているため、レポートを毎回実施することが可能になっていますが、このような効果的な教育を広く行うためにはTAの増員が不可欠であると思います。

2.グループディスカッション

 3年次の専門必修科目である「数学研究1」は、テキストを指定して学生に発表してもらうセミナー形式で行っています。20名程度のクラスが6つあり、それらのうちの1つを私は担当しています。担当部分や発表時間を指定したり、グループに分かれて発表をしたりと、クラスより様々なスタイルがあります。これまでの私のスタイルは、その場でランダムに発表者を指名するというものでした。常に自分が発表するつもりで予習し、発表しないときにもよく分からない部分があれば、発表者に分かるように説明することを要求するべきであると考えていたからです。ところが、昨年度の授業では、発表者への指摘どころではなく、緊張のあまりに発表そのものが出来ない学生が続出してしまい、授業は処刑場やお葬式のような雰囲気になってしまいました。そこで新しく導入したのが、「グループディスカッション」です。20名を4つのグループに分けて、予習でわからなかったところを中心にグループ内の学生同士で教え合う時間を授業の中に設けたのです。その結果、大きな変化が起こりました。それまで分からない部分があっても(自分だけが分かっていないことかもしれないという心配からか)皆の前では質問していなかった人も、グループ内では遠慮なく質問するようになったのです。どんなに簡単なことでも質問できる仲間を持つことで想像以上に活発な議論が行われました。もちろん、数学的に正しい議論が展開されたかどうかを私が確認するために、授業ではグループ毎に議論した内容(どのような方法で何をどこまで解決したか)を発表してもらうようにしています。

3.サポートコーナー

 上述の1、2の取り組みは、授業外学習時間の確保や授業の活性化という点では大変効果的です。しかし、授業についていけない学生や勉強の仕方がわからない等で困っている学生は年々増えています。理学部第一部数学科には、学科をあげて行っている「サポートコーナー」(学生の授業外学習の場)があります。毎週木曜日の午後に7号館3階のゼミ室(4~6部屋)を利用して、専任教員数名と大学院生9名で、1・2年次の専門必修科目を中心とした質問・相談の受付や定期試験に良く出題されるような重要な問題の紹介を行っています。毎週約60件の質問・相談者が来ており、学生の手と頭が良く動いていると感じています。