TUS 2022 | Special Talk

「伝統」から「革新」へ。
理科大が未来を拓く。

東京理科大学では、2022年1月1日に石川正俊学長が就任し、
浜本隆之理事長とともに新体制が始動した。
昨年140周年を迎え、新たな一歩を踏み出す理科大の未来を語っていただいた。

理事長 浜本隆之

理事長

浜本隆之

Profile

1992年東京理科大学工学部卒業。1997年博士(工学)。
同年東京理科大学工学部嘱託助手、その後、同学部講師、助教授(准教授)を経て、2011年教授。以降、工学研究科長、工学部長を歴任し、2018年理事、常務理事。2021年4月より現職。
専門は画像工学。

学長 石川正俊

学長

石川正俊

Profile

1977年東京大学工学部卒業。1988年工学博士。
1979年通商産業省工業技術院製品科学研究所研究員、1989年東京大学工学部助教授、1999年同大学院教授。以降、総長特任補佐、副学長、理事、情報理工学系研究科長を歴任し、2020年名誉教授、情報基盤センター特任教授。2022年1月より現職。2011年紫綬褒章受賞。
専門はシステム情報学。

建学の精神は、現代に通ずる

創設者たち 創設者たち

石川学長(以下:石川)
昨今、科学技術をベースとして社会を変革しようという機運が高まってきており、AIやデータサイエンス、インターネット技術を見ても科学技術によって社会が変わってきていると言えるでしょう。その機運の中で生まれた「科学技術で、社会の変革を」という考え方は、創立から140年続く建学の精神「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」そのものですよね。創立者の方々に社会を見通す目があったのだと尊敬の念を覚えました。

浜本理事長(以下:浜本)
大学において、建学の精神は最も大事なことだと思います。理科大創立時の1881年は明治時代。新しい政治が始まり、西洋諸国では第二次産業革命の真っただ中で、技術を中心に国が発展していこうとする時代でした。そのような時代に21名の若者たちが私財を投げうって東大から実験道具を持ち込み、理科大の前身である東京物理学講習所を開きました。こういった成り立ちは珍しく、これが理科大の原点です。創立から昨年で140年が経ちましたが、今でも建学の精神と実力主義を継承しています。伝統と革新をバランスよく取り入れ、常に最先端の研究・教育を行ってきました。これまでに、実力主義教育を受けた22万人の学生が巣立ち、社会で活躍しており、それが理科大のブランド力・評価に繋がっています。今後も確かな実力を身につけた人材を輩出し、石川学長とともに伝統を基盤とした新たな改革を進めていきたいと思います。

「TUS VISION 150長期ビジョンが描く理科大のあるべき姿

浜本理事長 浜本理事長

浜本:
2017年に策定した「TUS VISION 150」は、理科大の長期ビジョンです。創立150周年である2031年を見据えて理科大のあるべき姿を描きました。根幹に「日本の発展を支えてきた理科大」から「世界の未来を拓くTUS」への発展を掲げ、6項目の目標(※)を立てました。

※ 6項目の目標……①日本の先進技術を駆使しイノベーション創出に貢献する多くの人材を育成、②科学技術、経営、教育の分野で世界レベルのリーダーとして活躍できる人材を供給、③人類への貢献をめざし、高い実践力と忍耐力を持ってたゆまなく課題の解決に挑む人材を育む環境、④基礎研究から応用研究まで幅広い分野に亘って世界をリードする研究拠点、⑤学際的コミュニティの中で多様性をもった自由闊達な議論を求め、世界各国から人材が集う拠点、⑥世界のいたる所で社会に貢献する理窓会メンバーである校友の強固なネットワークの中核

 この長期ビジョンを実現していくなかで、社会は大きく変化してきました。その変化を受け止め、長期ビジョンに繋げるため、現在、2022年から2026年までの5年間の中期計画を立てています。一方長期ビジョンで計画されていた学部の再編については着実に実行しています。2021年度から基礎工学部を先進工学部に名称変更し、既存の3学科もそれぞれ名称変更しています。また経営学部には国際デザイン経営学科を新設しました。2022年度には工学部の工業化学科が移転し、工学部の全学科が葛飾キャンパスに集結することとなります。2023年度には理工学部が創域理工学部へ名称変更し、既存10学科のうち7学科も名称変更予定です。加えて、先進工学部に新たに2学科新設の予定です。そして2025年度の薬学部移転によって一連の再編が完了予定です。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン授業が増えたことで教育のDX化が加速しました。この大きな変化は、教育の空間や時間に変化をもたらしました。この先オンラインを活用し、教員が所属とは別のキャンパスの学生を指導すること、離れたキャンパス間で連携を取り学生たちの活動をサポートすることもあるでしょう。こうした要請に即して全学でしっかりと連携を取りながら進めていきたいと思います。

石川:
そうですね。新体制のもと、さまざまな社会の変化に対応できる大学を実現していきましょう。TUS VISION 150には、教育についてもまとめられています。私が今まで教えてきた学生には、「教科書には今までの真実は書いてあるが、未来の真実は書いていない。未来の真実をつくるのはあなたたちだ。」と伝えてきました。過去の真実を教えるのは教員ですが、未来の真実は自らで導き出すのだという創造的なマインドを持った学生を育てることが必要です。私が今まで教えてきたことがTUS VISION 150にもありました。これこそが科学技術や社会の変革を生み出す力になると思います。

浜本:
教育面で付け加えるなら、現在、学部学科の横断的な教育に取り組んでいます。所属している学科の専門分野だけでなく、横断的な教育を増やしています。こうした仕組みが特に充実しているのは、「横断型コース」で教育研究を推進する理工学部(2023年度に創域理工学部へ名称変更予定)です。さらに2021年度に基礎工学部から改称した先進工学部では、学問分野を横断的に学ぶ学科を2023年度から新たに設置し、さらに教育研究を広く展開する予定です。工学部でも他学科の実験、演習に取り組む教育プログラムを検討しています。最近では、学部横断型の「データサイエンス教育プログラム」を全学的に導入することで共通の素養が育まれ、また先ほども触れた教育のDX化が進んだことで離れた4つのキャンパス間の繋がりが増しています。一方研究においても、1981年から理科大内の関連する分野の教員が集まって研究を行う総合研究院を設立しており、各研究室の垣根を超えて研究活動が行われています。

石川:
教育のDX化によって大学の発展も加速していますね。インターネット技術の発展で、一つの革新的な科学技術の新たな知見が瞬く間に世界に拡がって人類共通の知識になるという、スピード感のある時代です。こうした中では、理学=科学技術の定義も変わってきます。こと現代社会において、科学技術は多様化と細分化が進んでいますので、「世界の未来を拓くTUS」を目指す理科大では、次々に新しいものを生み出す発展を前提とした仕組みづくりが必要でしょう。今、科学者教育に求められるのは三つの力です。それは、「今の技術を支える力」、「次の時代(科学技術)を創造する力」、「さらにその先の変革する科学技術に適応できる力」です。ともすれば教育は、今の科学技術だけを教えがちですが、現在はさまざまなところから情報を得ることができます。だからこそ、理科大の教育では今の科学技術だけではなく、未来への道筋を示していかなければなりません。それが、理科大の強みとなり、輩出する人材の強みになると思います。
 今や、一つの学科で学んだことで定年まで勤めるような人はほとんどいませんからね。ある学科で学んだことを基盤に、5年後、10年後に必要とする研究分野に飛び移っても活躍できる人材を育成するべきです。そして、まだ見ぬ分野が出てきたときにも気軽にチャレンジできる人物像を掲げていきたいですね。いつでも使える基礎教育と究める力を磨く専門教育を行い、T型人材のようなゼネラリスト兼スペシャリストを育成すること。まさに、横断的な教育が生きてくるところです。その先に、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育があり、幅広くバラエティに富んだ多様性を持った教育が用意されているのが理科大なのだと思います。

産学連携が拓く、科学技術の未来

石川学長 石川学長

石川:
一方、今まで大学の基本的な役割であった教育と研究に加えて、新たに社会貢献が加わったことで大学は社会と連携を強めてきました。科学技術をベースに産学連携を行っていくことが強い力を持つ時代です。

浜本:
理科大でも産学連携には力を入れてきており、2020年度から、民間企業や研究機関などと連携して教育研究の充実を図る「社会連携講座」に取り組んできました。これに加え昨年からは企業との共同研究の新しい枠組みとして「共創プロジェクト」を創設しました。ここでは、企業だけでは取り組み難い新規マーケットや未来のニーズに対する研究を行っています。今後こうした学外機関との共創を一層活性化させるべく、サポート体制をより強化していく構想を練っているところです。

石川:
私は以前から、産学連携の取り組みに携わってきました。その中で社会と大学、あるいは社会と科学技術が良い関係になるように力を尽くしてきたつもりです。現在の科学技術の構造は、二つのタイプがあるといえます。一つは、アナリシス型の「わかる科学」。これは与えられた問題を分析(=アナリシス)して解を導くもので、今までの科学技術はこのタイプをベースに発展してきました。今、これとは別のタイプの構造が必要になってきています。それが、シンセシス型の「つくる科学」です。何もないところに新しい仮説を立てて新たな価値を提案し、科学技術をベースに実現(=シンセシス)して、社会に「いいね」をもらうことで新しい社会の価値を生み出す科学技術です。この際、その価値を認めるのは研究者自身ではなく、社会です。社会に受け入れられることで新たな価値が生まれ、社会を変えることになります。例えば、GoogleやFacebookなどの大学発ベンチャーがそうでした。前提に何か問題があったわけではなく、自らの発想を科学技術を用いて実現し、社会から評価を受けることで新たな価値を創造しました。私は、社会がどれだけ受け入れるかを社会受容性と呼んでいます。ニーズとは違い、社会受容性のある科学技術を生み出すことが重要となります。現代では科学技術・研究の価値を創造するのは大学や企業で、それを評価するのは社会です。社会受容性を測るには、社会に発信する力、アピール力も求められているといえます。

浜本:
現在、本学には多くの理科大発のベンチャー企業があります。これは私大ではトップクラスです。これを増やしていきたいですね。担当者が積極的に推進していますが、思わぬ学部学科の学生が思いもよらないアイデアで起業していくので非常に刺激的です。理科大の横断的な教育の中で、異分野同士の方々が起業しています。しっかりと後押ししていきたいと考えています。

石川:
産学連携で参画いただく企業が求めている新規マーケットや未来のニーズは、社会に認められて初めて価値が生まれます。この社会実験が行いやすい大学を利用しない手はないでしょう。企業にとっては、共同研究・実験で投資面のメリットがあり、大学ではそのチャレンジから新しい科学技術を生み出すことができます。加えて、未来の真理を探究するには、アナリシス型の「わかる」科学にシンセシス型の「つくる」科学を一体として進める必要があります。日本は全体として、この「つくる」科学が遅れているのです。世界をリードするためには、この「つくる」科学の必要性について訴え、先端の科学技術を持つ理科大の中で未来を見据えた活動ができたらと考えています。

世界の未来を拓くTUSへの戦略的施策について

石川:
現代社会において、また今後の大学にとって、多様性はキーワードになると思います。学生や教員の多様性を維持しつつ、理科大の個性を同時に出すような戦略を立てなくては世界に勝てません。さまざまな学会を通してアピールするとともに他の大学や研究機関と連携を強めて、その中で評価を受ける必要があります。理科大の学生は、海外で通用する実力を持っていますから世界でチャレンジしてほしいと思います。同時に、留学生の受け入れの強化をして、理科大の中でも多様性と個性を出していきます。世界から見ても魅力的だと見られるためには、学生たちに目標があり、研究者たちがわくわくする大学でなければなりません。実際それだけの広い分野をカバーしていますし、世界から注目される理科大がそこにあります。

浜本:
「世界の未来を拓くTUS」は、2021年4月に発足した新理事会の課題の一つでもあります。「世界」を掲げていますが、まずは日本でのプレゼンス(存在感)をしっかりと固めてから世界のTUSを目指していきます。組織としては世界に認知され、世界的課題に取り組む研究拠点、世界から学生や研究者が集まるような大学にしたいですね。学生たちには世界のどこででも活躍できる力を身につけていただき、世界の持続的発展に貢献できる人材を育てていきます。現在、水界面・宇宙・ロボティクスの分野に注力しており、今後さらなる連携を発展させていきたいと考えています。
 150周年の節目に向けて、大学を発展させて社会に貢献していくことで、必要とされ選ばれる大学でありたい。学生や教職員にとって教育研究の魅力ある環境を充実させていくのが理事会のミッションです。昨年4月から今期の理事会の活動が始まる際に、目指すべき大学像として「日本の理科大から世界の理科大へ」、「より一層の愛校心、誇りを抱ける大学へ」を定義し、それを基に今後取り組む課題を7項目にまとめています(※)。これまで、教育力・研究力のランキングでは上位に入っており、理工系総合大学として確固たる地位を築いてきました。今後、大学を取り巻く環境はどんどん厳しくなっていくことが予想されますので、これらの課題を着実に実現し、本学の魅力をさらに高めていきたいです。

※ 取り組む課題……①教育研究力の向上、②国際化の推進、③優秀な学生の確保、④在学生への支援の強化、⑤キャンパスの整備・再構築、⑥ブランディングの強化、⑦同窓生との協働(同窓生との連携を強化し、現状把握に努め、情報の活用を推進し、理窓会との協力態勢をより一層強化する)

科学技術に変革、
理科大を価値の創造拠点へ

二村記念館 二村記念館

石川:
これをきちんとしたカタチにしていくことが、私の役割です。理事長と二人三脚で進めていきたいと思います。大学には従来までの知の集約拠点としての役割に加えて、社会価値の創造拠点としての役割が求められています。これまでに社会になかった価値を大学発で提示していくことができるはずです。より一層、社会に対して強く連携を図っていきたいですね。
 近年の状況を見ると、科学技術の進歩を大学が支え、特に新規分野の開拓に貢献している時代ともいえます。企業の方々には、理科大とともに新規分野の開拓をしませんか、と伝えたいです。大学の新鮮な知識やアイデアを一緒に社会へ還元していく取り組みです。大学を軸に新しいチャレンジの起爆剤にしていただくことが、研究組織としての大学の存在意義になりますからね。

浜本:
ぜひとも理科大とともに社会を変える取り組みに参画いただければと思います。新しい価値観を取り入れて理科大の教育研究のさらなる発展・価値向上を図り、社会貢献を通して必要とされる存在であり続けたいですね。
 こうした理科大の活動の基本には教育研究理念「自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造」があります。これは、現代の社会課題であるSDGs(Sustainable Development Goals)の精神と符合しています。科学技術の発展に寄与して、国際社会に貢献するためには社会課題の取り組みも忘れてはいけません。今後は、石川学長とともに新しい体制で、さらなる発展に全学が一丸となって取り組んでいきます。
 新鮮な気持ちで新しい年を迎えた理科大に、是非ご期待いただきたいと思います。

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