理工学部・応用生物科学科の定家研究室では、人間のがんのメカニズムと治療薬について研究しています。この研究のカギとなるのが「テロメア」です。
テロメアとは、体を作っている細胞のDNAの両端にあるものです。正常な細胞の場合は、細胞分裂を繰り返す度にテロメアが少しずつ短くなり、それに伴って分裂の回数も減り、やがて分裂しなくなります。この現象が「細胞老化」です。
一方、がん細胞の場合は、本来ならだんだん短くなるはずのテロメアを伸ばすことができます。そのため、体内でどんどん無限に分裂・増殖していってしまうのです。
この「テロメア維持機構」を食い止める方法や、食い止めるのに有効な物質を発見することができれば、がん治療法の開発につながります。
そこで定家研究室では、がん細胞のテロメアを伸ばすたんぱく質「テロメラーゼ」に着目し、このテロメラーゼの働きを抑える薬の開発を目指しているのです。
また、細胞は老化によって分裂を止めることから、がん細胞を死滅させる方法だけでなく「がん細胞を老化させる=増殖させない」という方法についても、併せて研究を進めています。
テロメラーゼの働きを抑える薬の開発は、がんの約90%に対して有効とされています。しかし、定家研究室ではこれにとどまらず、残り10%のがんに対する薬の開発にも同時に取り組んでいます。
具体的には、テロメア維持機構に関わっている「クロマチン」というDNAとたんぱく質の複合体 を観察し、このクロマチンの状態を変えられる化学物質を見つけ出すことによって、テロメア維持機構やがん細胞の増殖をコントロールしようとするものです。
残り10%のがんには「希少がん」といわれる発症例の少ないがんが多く含まれ、治療研究があまり進んでいない分野といえます。それでも、発症が確認されている限り、研究に取り組むことは基礎科学研究者の使命だと、定家准教授は考えています。
企業では行われないような、活用範囲の狭い治療研究も積極的に進めていくという姿勢は、より多くの人の健康と幸せにつながっていくでしょう。
■
主な研究内容