日本のエネルギー供給は、石油、液化天然ガスと石炭の割合が多く、近年になってから再生可能エネルギー、新エネルギーの割合が増えています。
これまでも有限な資源に頼るのではなく、持続可能な「再生可能エネルギー」の開発が必要性なことがいわれてきました。そこへ2011年の東日本大震災が起こり原子力のリスクが露わになったことで、再生可能エネルギーがより注目されるようになったのです。
特に太陽光発電は、風力発電や地熱発電と比較して普及率が上がっています。太陽光発電が普及した理由の1つは、国際的な企業競争によってコストが下がったこと。しかし世界的に見ると、日本の再生可能エネルギーの割合はまだまだ低いのが現状です。
理工学部 電気電子情報工学科の杉山研究室は、太陽光発電はもっとコストを抑えられると考えています。そこで注目したのが、酸化ニッケル系太陽電池と硫化スズ系太陽電池の開発でした。酸化ニッケル系太陽電池の特徴は透明であることです。光を全て吸収するのではなく、紫外線だけを吸収して発電する。この透明さを活かせば、車の窓ガラスやビニールハウス、眼鏡のレンズなどを太陽光パネルにすることが可能になるというのです。
身近な場所で発電ができると、それらを応用したシステムやスマートウォッチのようなウェアラブル端末などの製品がいろいろと考えられていくでしょう。
たとえば、繊維に透明な太陽電池を織り込んだ服を作れば、服のデザインを損ねること無く、高齢者の心拍数や体温などの身体情報を負担なく収集できるようになります。
また硫化スズ系太陽光電池は、温泉ガスを使って簡単に作ることができるため、製造技術や資源が乏しいアフリカやアジア諸国での普及を目指しています。
現在、杉山研究室は自ら考え行動するビニールハウスを利用したプロジェクトを立ち上げ、AIを活用した植物の栽培環境の最適化を目指した実験を行っています。これによって植物の育成環境を透明な太陽電池から供給された電力で動く、透明で安価なセンサーやコンピュータが監視し、必要に応じて水やりや換気を行うことができるのです。これが実用化すれば、農作業の負担軽減にもつながり、栄養価の高い野菜や美しい草花を安定的に供給できるようになるでしょう。
杉山研究室の研究は地上ばかりでなく、宇宙でも活用が期待されています。宇宙には地球と違って大気が存在しないため、太陽の放射線や熱が直接強い影響を及ぼします。宇宙ステーションでは過酷な環境下でも壊れない太陽電池が必要です。酸化ニッケル系太陽電池は軽くて曲がりやすい性質のため耐久性がよいといわれています。宇宙ステーションで半永久的に使用できる太陽電池が完成すれば、宇宙での作業に大きく役立つことは想像に難しくないでしょう。
宇宙で使用できる高度な技術開発は、私たちの日常にも幅広い可能性を与えてくれます。再生可能エネルギーが進化し、低コストになって普及していけば、地球温暖化や限りあるエネルギー資源の問題解決にもつながっていくことが期待できるのです。
■
主な研究内容
グリーン水素の製造、利用技術を確立し、
CO2を出さない社会を目指す。
総合研究院 カーボンバリュー研究拠点
理学部第一部 応用化学科
工藤昭彦教授
総合研究院 カーボンバリュー研究拠点
工学部 工業化学科
田中優実准教授
2023年03月27日