地震によって家や街が被害を受けると、それを元に戻すまでには大変な労力と時間がかかります。
地震の被害を把握するために、余震の危険が残る被災地で膨大な数の建物を調査しなければならないからです。さらに、この調査環境は地震の影響で電気・通信がストップしており、モニタリングシステムが正常に稼働させられないという問題も起こり得るのです。
一日も早く復旧を進め、元の暮らしを取り戻すには、地震直後の被害状況を迅速に把握できる仕組み作りが必要です。そこで、工学部 建築学科の伊藤拓海教授は、IoT(Internet of Things)を利用した「知能住宅システム」の研究に取り組んでいます。
IoTとはさまざまなモノをインターネットと繋ぐ仕組みです。「外出先から、自宅のエアコンをスマートフォンアプリで操作する」というように、家電の世界ではすでに身近な存在となっています。
知能住宅システムとは、このIoTをAI(人工知能解析)などと組み合わせて建物に応用し、建物自身が被害状況を検知して住人のスマートフォンなどに連絡できるようにするものです。
このシステムが実用化できれば、地震後の建物の被災度診断が無人化・高度化され、復旧のスピードアップに繋げられるでしょう。
また、建物の中で人の動きを感知するセンサーは、一人暮らしの高齢者や子どもの見守り、孤独死や介護といった社会問題にも大きく役立つはずです。
知能住宅システムには、独自のIoT技術が必要です。たとえば、地震後に停電していても、建物が自分で電気を起こしてセンサーを起動させ、建物や中にいる人の安全を判断する技術。ネット環境が混乱している状況でも、すばやく情報収集して近隣のハザードマップなどを作成する技術。
このような技術を具体化するには、建築の知識・技術だけでなく、他分野からも知識・技術を取り入れなければなりません。そのため、伊藤教授を中心として、物理・化学・電気・回路・通信・解析などの研究者と学際的な研究体制を組織して、研究室での基礎研究と建物を使っての実用化研究を協力して進めています。
建物を研究することは、単に建物だけを見つめることが目的ではありません。住む人の命を守ること。そして、安心して住める・住み続けられる街を造ることに繋がっています。
特に、都市人口が世界的に増え続けている今、災害に強い建物の在り方を考えることは、時代から求められている課題でもあるのです。
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主な研究内容
総合研究院 ウォーターフロンティア研究センター
工学部 機械工学科
元祐昌廣教授
総合研究院 ウォーターフロンティア研究センター
創域理工学部 先端化学科
酒井健一准教授
2023年04月07日