理学部第二部の化学科では、4年生での卒業研究が選択必修科目となっていて、選択肢が3つある。『A卒業研究』は、夜間学部の授業時間帯に、主に社会人学生を対象として実験研究を行う。『B卒業研究』は、一般的ないわゆる実験研究を行う。そして『C卒業研究』は、社会人学生や教育実習で長期欠席する学生を主な対象として、週1コマのゼミ形式で行う。教育的、研究的な効果を最優先で考えた場合、当然のことだが『B卒業研究』が望ましい。しかし、あえてここでは『C卒業研究』にスポットをあてて紹介する。理学部第二部では、教育内容は昼間学部と変わりがなく、本格的な理学教育が行われている。それは学生にとって、簡単なことばかりではないだろう。秋津教授は言う「昼間学部と遜色の無いようにやるのですが、学生の多様性については配慮しないといけないと思います」。働きながら学ぶことは難しく思えるかもしれないが、実際に学んでいる人はたくさんいる。そういうことを可能にしている仕組みのひとつが『C卒業研究』ということになる。
秋津ゼミの『C卒業研究』は、“環境と火災の化学”と題して、環境·火災·無機化学の要素を含むテーマを毎年設定している。ゼミ学生が分担部分の調査や論文執筆を行い、全員分を合体させて一本の総説論文を英文で完成させる内容だ。これまでのテーマは「ノートルダム大聖堂の火災と鉛の害」、「工場や森林火災による水銀の環境への影響」など。今年度のテーマは「山火事と大気汚染における化学」で、環境変動に伴う山火事がオゾン層破壊や環境汚染(六価クロム)を起こす問題に取り組んだ。秋津教授は言う「山火事の影響で有害物質が出てくるという内容を取り扱いましたが、環境と火災、そこに化学の知識を混ぜていくと、いいテーマを設定することができます。ですから、秋津研究室で行っている錯体化学の研究にはこだわらず、無機化学の学際的かつ社会的な応用をやっているわけです」。今年度の履修者は8名だが、各自の文献調査、論文執筆と、グループでの議論で仕上げていくことになり、担当ではない部分についても積極的なコメントが求められる。それにより、さまざまな状況への適応力が生まれ、課題解決能力の向上が期待できる。
週1コマの『C卒業研究』だが、大きな盛り上がりをみせる年もあるそうだ。数年前には企業勤務経験のある社会人学生が中心となって、環境と化学について自主的に激論を交わしたことがあったという。また、別の年には現役の消防士が中心となって、森林火災と消火剤の環境負荷のテーマを、職場の上司にも報告しながら議論し、論文にまとめたこともあるそうだ。秋津教授は言う「論文を執筆する際に、他者との意見交換の中で考察を深め、課題解決に向けた意見をまとめていってほしいとずっと願っています」。『C卒業研究』をどう捉えるのかにもよると思うが、議論の場として積極的に考えて活用するなら、この授業の価値も見え方も、また変わってくるのではないだろうか。「一方的に話を聞くだけで卒業するのではなく、自分で調べたり、発表したり、議論したりということを経験してもらいたいと思ってやっています」と秋津教授。大学院への進学を考えるようになる学生も毎年出てきている。履修した学生の経験や性格によって毎年授業の様子は変わるということだが、時間的な制約はあったとしても、しっかりとした学びの場が用意されていると感じた。
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主な研究内容