2023.10.27
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火災やそれに伴う煙、爆発、その科学的解明に取り組み、火事に強い都市づくりを目指す。

火災は依然としてなくならない。江戸時代の大火は有名なところだが、数百年を経た現在においても、私たちは火災の悲劇を目にし続けている。そうした火災に正面から取り組み、人命や財産を守るための知識や技術を積み上げているのが総合研究院 火災科学研究所だ。松山教授は言う「私は火災現象を研究していますが、燃焼による火炎性状、煙流動、有害ガスなど、さまざまな側面からのアプローチが必要になります」。つまり、火災の時に起きる現象を詳細に把握あるいは予測できなければ、有効な対策を講じることができないというわけだ。一方、桑名教授は「火災・爆発現象の研究です。実験室規模だけではなく、屋外での大規模実験なども通して、その科学的解明に取り組んでいます」。こうした火災現象の知識は、建築物はもちろんのこと、鉄道などの交通機関や化学プラントなどでも応用可能であることから、研究の分野はますます広がり続けている。

世界トップレベルの実験棟を持ち火災に関わる幅広い分野の研究者が集まった、専門家集団。

火災科学研究所では、①火災物理・化学、②避難・人間行動、③構造耐火・材料防災、④消防防災・産業火災の4領域の研究が行われている。その核となっているのが、世界トップレベルの規模と機能を持つ専用の実験棟だ。そこで得られた数々の知見は、法律や基準等の提案にもつながり、建築物の火災安全対策にも活かすことができる。しかし、昨今、想定外の火災が各所で起き、その対策も急がれているという。松山教授は言う「放火などによる事件が起きていることも無視できません。そうした火災に対しても、それを上回る安全性を確保することで被害低減につながるのではないかと考えています」。松山教授は、現在、桑名教授との共同研究により、特殊機能を利用した煙粒子の誘導に関する研究に取り組んでいる。これが実用化できれば、日本の高層ビルなどに設置されている排煙設備を大幅に効率化でき、想定外の火災からも、人々を守れるようになることが期待されている。

若手研究者や専門技術者の育成にも取り組む、アジアの火災安全情報拠点。

天井まで高さが20mにもおよぶ専用実験棟での実習授業では、アジアからの留学生の姿も多い。アジア諸国の火災に関する法令に対して、技術的な提案を行う機会も少なくないという。国内に目を向けてみると、火災に関する多数の産学連携研究が行われてきた。その一例を挙げると、原子力発電所での火災に関する研究、たばこによる火災の研究など、日本の防災にとって重要なものばかりだ。そして、ひとたび火災が発生すれば、研究所には問い合わせが殺到する。これも、日本を代表する火災研究の拠点である証しだろう。今後の展開としては「火災現象の把握から一歩進んで、火災から人の命を守るようなものづくりをしたいと思っています」と桑名教授。火災は依然として私たちの脅威ではあるが少しずつ成果は出ている。「日本で起きる火災は、10年前は5万件といわれていましたが、現在は3万5000件くらいです。建物としての規制や技術開発がうまくできているというのが一因ではないかと思います」と松山教授。この国から火災がなくなる日が、くると信じたい。

創域理工学研究科
国際火災科学専攻 松山賢 教授

■ 主な研究内容

専門は、火災・燃焼工学、熱流体、消火理論、計測工学。火災現場で発生するガスを特定する研究や電界を利用した排煙設備の効率化などの研究にも取り組んでいる。

創域理工学研究科
国際火災科学専攻 桑名一徳 教授

■ 主な研究内容

専門は、安全工学、燃焼学。火災や爆発現象、特に火災旋風、ガス爆発・粉じん爆発などのメカニズム解明に取り組んでいる。

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