集積回路や無線通信の専門家から、脳神経学・運動生理学や薬学の専門家まで。総合研究院 スマートヘルスケアシステム研究部門には、広い分野の研究者が集まっている。目指しているのは、病気にならないように健康を維持するという、これからの医療への転換だ。山本准教授は、これまで体内に埋め込んだ人工心臓にワイヤレスで電力を送る研究などに取り組んできた。「コイルという部品を体内と体外に置いて、その間で電磁誘導により電力伝送をします。感染症低減などのために大切ですが、ズレが生じた時にうまくいかないなど課題も多いです」と山本准教授。梅澤准教授は、ナノ粒子と生体の相互作用について研究している。「ナノ粒子には多くの種類がありますが、体の中にも存在します。いろいろな細胞から出ていて、機能分子を別の細胞に運び、そこで機能を発揮させることが可能になるので、体の中の環境を整えるために面白い役割を担っていると注目しています」と梅澤准教授。こうした一つひとつの研究が新しい研究へつながろうとしている。
スマートヘルスケアシステム研究部門では、いくつもの共同研究が進んでいるが、山本准教授と梅澤准教授が参加する「脳ー臓器連関が切り拓く運動による健康増進/長寿メカニズムに関する研究」もそのひとつだ。この研究では、運動が人間のメンタルヘルスにおよぼす効果の原理をナノレベルで解明しようとしている。梅澤准教授は言う「狙いは2つありまして、ひとつは、運動をするとこんなにいいことがありますよと明らかにすることです。もうひとつは、運動をしたくない人にもどうしたら運動と同じ効果を与えられるのかを見つけたい。それができれば、病気の予防とかメンタルヘルスのコントロールができるかもしれません」。しかし、相手は人間である。通常の研究はマウスを使って行われることが多いという。マウスにセンサーをつけて自由な動きをモニターしていく場合などには、山本准教授のワイヤレス電力伝送の技術が力を発揮することになる。
現在、研究部門で行われているのは、生体情報をセンシングするためのシステムの研究、人工臓器への非接触エネルギー供給と情報伝送、そして遠隔医療のための無線通信システムの3つの柱。それらが進んだ先にあるのは、病気にならない世の中だ。身体の状態をモニターするということは、世界中ですでに始まっている。消費エネルギーや心電図を簡単に測れるデバイスがあることをご存知の方もいるだろう。山本准教授は言う「健康を支える上で必要なありとあらゆる情報を取りたいと考えています。そのためには日常のすべての時間、身体をセンシングできるようになることが重要です。我々がやっている研究が進んでいけば、体外からも体内からも情報が取れると思っています」。「あらゆるものをセンシングして、そこから有意義なことがしっかりと分かるという状態にしたいですね」と梅澤准教授。病気になる人はいなくなる、そんな未来が少しイメージできたような気がした。
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主な研究内容
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主な研究内容