2023.03.27
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食と健康に役立つ技術の開発を目指す生物環境イノベーション研究部門。

東京理科大学では、教育と同時に多くの研究が進行していることは言うまでもない。その研究において、全学で推進しているのが分野を横断する取り組みだ。専門の異なる研究者が集まることで、これまでにない研究成果を目指そうというのである。さらに総合研究院は、学内外、国内外の壁を取り払い、学際的な研究を推進するとともに、研究者の流動性・機動性を強化し、社会とのつながりの強化を目指すものでもある。宮川准教授と坂本講師が所属する生物環境イノベーション研究部門は、そうした研究組織の一つであり、急激に変動する生存圏環境において、生物が生きていける環境を守り、食と健康に役立つ技術の開発を目標としている。

地球環境、生物多様性などに関する多種多彩な研究が進行中。

宮川准教授は環境中に放出された化学物質が生物にどのような影響を与えるのかを明らかにしようとしている。「身近な化粧品や日用品、医薬品などに由来する化学物質が生物に悪影響を与える可能性があります」と宮川准教授。今すぐに人間に影響が出る心配はないそうだが、公害がそうであったように影響が出たときには手遅れになってしまう。実際にメダカを使った実験では、ある種の医薬品を与えた場合、行動に変化が起きるそうだ。その時に、遺伝子に何が起きているのかを慎重に調べているという。こうした研究は規制の基準値づくりに欠かせないものとなるそうだ。一方、坂本講師は植物の環境応答・適応の仕組みの解明を目指している。「植物が生きていく上で欠かせない必須栄養元素の一つにホウ素がありますが、そのホウ素も土壌中に過剰に存在すると、逆に植物の生育に害をもたらします」と坂本講師。研究では、ホウ素過剰によってDNAの損傷が起こること、そして細胞内にあるDNAとタンパク質の複合体クロマチンがその構造を安定的に保つ仕組みによって、ホウ素過剰によるDNA損傷を防いでいることがわかってきたそうだ。

共同研究が可能にする人類存続に資する新しい学術領域。

環境という大きなテーマについて研究を進める上で重要なのは多くの力の結集だ。宮川准教授が取り組む化学物質による生物への影響の解明は、他大学も参加するプロジェクトとして進行している。「川にはどれぐらいの薬品が流れ込んでいるのかを他の大学が調べ、化学物質がどのように生物に作用するのかを理科大が担当し、さらにもっと大きな個体レベルや群レベルでどんな影響があるのかをまた別の大学が調べています」と宮川准教授。一方、坂本講師は、自分の研究で培ってきたクロマチン解析の技術を生かして、研究院の別のグループにも参加しているという。「自分では思いもつかないような分野の研究に参加できるのが共同研究のメリットです」と坂本講師。専門分野の異なる研究者が有機的に連携することで、これまで不可能だった研究が可能になり、新しい学術領域も生まれてくる。そのような胎動を、東京理科大学では多数目撃することができるのである。

総合研究院 生物環境イノベーション研究部門
先進工学部 生命システム工学科
宮川信一准教授

■ 主な研究内容

専門は発生生物学、環境生物学。環境中に放出された化学物質の生物への影響も研究テーマの一つ。

総合研究院 生物環境イノベーション研究部門
理工学部 応用生物科学科
坂本卓也講師

■ 主な研究内容

専門は植物分子生物学。環境問題や農業生産問題の解決へ向けて、主に植物の環境応答・適応の仕組みを研究。

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