2023.04.07
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集団を形成する複数の個体の脳を同期計測する新しい学問分野パラレル脳を創生。

人間が社会的な生き物であることは言うまでもないが、それはどうしてなのか。その仕組みを明らかにしようというのが、パラレル脳センシング技術研究部門の目的である。つまり、複数個体の脳活動に注目し、集団形成プロセスにおいてどのように相互作用するのかを明らかにしようというのだ。竹村教授は言う「うまく集団をつくれる人とつくれない人がいます。何が違うのか。複数脳が共同する場面を一つのモデルとして研究し、そこから脳の解明につなげていきたいと考えています」。具体的には、複数の人に脳波や脳活動を測るセンサーをつけてデータを取り、そこから得られた仮説を基にしてネズミなどの動物実験でさらに確かめていく。「脳を研究している学者も、センシングに精通している学者もいる理科大だからこそできる研究です」と竹村教授。

人の社会性に影響を与える精神疾患の研究などを推進し、共感脳の分子メカニズムを解明。

研究部門では最終的な目的に向けて多くの研究が進んでいるが、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達性の疾患の研究もその一つだ。ASDは他者との共感・社会行動に障害があるとされているが、不明な点が多い。ASDの危険因子として染色体3p26の遺伝子欠失が示唆されている。その欠失の影響について、社会行動を含む社会行動の変化、神経発達変化、遺伝子発現変化を解析することで病態メカニズムの解明を目指している。瀬木教授は言う「ASDの人は、人と人とのやりとりが難しいということが分かっています。つまりそこで問題になっている遺伝子が、社会行動にとって重要だということが疾患の研究から分かってきます」。竹村教授によると「一方で、ASD傾向の高い人の行動を調べてみると、すれ違うときに、ぎりぎりまで近づいてきて直前で避けるという行動になります。そのときに脳の働きをセンシングしてみると、脳のある部分の反応が遅くてそれが原因ではないかと分かります。そうすると、今度は動物実験でその脳の働きを詳しく調べていけるというわけです」。

オンライン空間での集団形成や共生支援にも欠かせない知見の確立へ。

WHO(世界保健機関)は、2030年に健康な生活に影響を与える疾病の第1位になるのはうつ病などの精神疾患と予想している。精神疾患とは、遺伝子や神経なども含めた脳の問題である可能性が高い。誰もが健康に生き続けられる持続可能な社会を目指す上で、その解明は不可欠だ。また、脳の解明は健康面だけにとどまらない。広がり続けるネット社会において、オンライン空間での集団形成や共生の支援も脳を理解することで可能になる。さらに、脳とテクノロジーを組み合わせたブレインテックにも注目が集まっている。脳科学を活用したサービス、新しいデバイス開発への投資は増え続けるばかりだ。「脳神経の研究者と機械やロボットの研究者が一緒に新しいことを考えるというのは、とても自然な流れではないでしょうか」と瀬木教授。脳の研究は難しくデリケートなものではあるが、同時に、私たちをワクワクさせてくれるものでもあるようだ。

総合研究院 パラレル脳センシング技術研究部門
創域理工学部 機械航空宇宙工学科
竹村裕教授

■ 主な研究内容

専門は生体機械学、ロボット工学、情報工学。人の動作の計測・モデリング・コントロールの研究をはじめ、 医療福祉機器の研究開発など幅広く取り組んでいる。

総合研究院 パラレル脳センシング技術研究部門
先進工学部 生命システム工学科
瀬木恵里教授

■ 主な研究内容

専門は神経科学、精神薬理。うつ病を中心とした神経・精神疾患における病態発症と治療のプロセスを、 分子・細胞・個体の観点から解明しようとしている。

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