2023.03.27
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人工光合成触媒の研究を進めグリーン水素の安定供給を目指す、カーボンバリュー研究拠点。

水素は、化石燃料と違って、燃やしてもCO2は発生せず水ができるだけなので次のエネルギーとして期待を集めている。しかし、現在、水素は主に化石燃料を消費してCO2を排出しながら工業的に製造されている。クリーンエネルギーとしての水素を考えた場合に、太陽光などの再生可能エネルギーを使って、水から水素を製造することが必須である。例えば太陽光発電と水の電気分解で水素を作ることができるが、実用化には至っていない。そこで、東京理科大学では、電気分解をせずに水から水素を得る方法として、光触媒の研究が進んでいる。水に光触媒となる金属酸化物などの物質を入れて光を当てるだけで水素が発生するという画期的なものだ。水素社会実現のためには大量の水素が必要になる。工藤教授は言う「CO2を発生させずにつくる水素をグリーン水素というのですが、その安価で安定した供給体制ができないと、資源、環境、エネルギー問題は根本的に解決しません」。

粉末の光触媒を製造し、それを使った光触媒パネルで水素プラントの建設を構想。

光触媒によってグリーン水素をつくる研究でカギとなるのは材料開発である。すなわち、もっと効率良く水素を発生させることができる光触媒を見つけようというのだ。工藤教授は言う「長年研究を続けてきて、ずいぶんと効率は上がってきていますが、ブレークスルー的な材料を開発できるかどうかが将来、社会実装できるかどうかのポイントになります」。水分解光触媒として代表的な物質にチタン酸ストロチウムがあるが、これは紫外線のみに反応するため、水素を発生させるには効率が良くない。どの波長の光にも反応する物質を開発し、それを手軽に使える粉末にするなどして、効率を上げる研究が進んできた。「光触媒の粉末を塗ったガラス製のパネルを張り巡らせた施設をつくり、そこに水を注いで太陽光を当て、水素を取り出すという水素製造プラントの基礎となる技術開発が進んでいます」と工藤教授。「工藤先生のグループが開発した光触媒の電気的な物性を計測をしたり、追加的な電気化学処理を施したりしながら、新たな視点からの光触媒材料の開発を行っています」と田中准教授。お互いが持っている要素技術を結びつけることで、相乗効果を目指した共同研究が進行中だ。

燃料としての水素だけではなく、肥料の原料となるアンモニア製造など水素の活用法も研究。

水素は化学工業においても重要な原料である。「何かと水素を反応させて、いろいろな化学製品ができるわけですが、特に重要なのはアンモニアです。アンモニアは植物の育成に欠かせない窒素肥料の原料になります」と工藤教授。他にも水素とCO2を反応させることで都市ガスの原料となるメタンをつくることもできる。東京理科大学では、水に光触媒を入れてそこにCO2を加えることでメタンを発生させる研究も行われている。今後、化石燃料が枯渇したり、地球温暖化が進んだ場合、これまでと同じようなCO2の発生を伴う水素の製造ができなくなる可能性が非常に高い。そういう意味でも、グリーン水素の製造技術の確立が急務である。

総合研究院 カーボンバリュー研究拠点
理学部第一部 応用化学科
工藤昭彦教授

■ 主な研究内容

専門は、触媒化学、光化学、無機材料科学、人工光合成、光触媒。効率の良い人工光合成を行うことができる 新しい光触媒の開発に取り組んでいる。

総合研究院 カーボンバリュー研究拠点
工学部 工業化学科
田中優実准教授

■ 主な研究内容

専門は、無機材料化学、電気化学、固体化学、セラミック工学。燃料電池や振動発電システム、 リチウムイオン二次電池などの開発に取り組んでいる。

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