2023.04.07
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データに支えられた現代医療に欠かせない、医療統計の専門家。

「人の病気に関するデータといっても、心臓病と消化器疾患、感染症でもCOVID-19などの市中感染と手術時の感染など、どれも病気の特性がまったく違います。いま必要な医学的知見は何かを臨床家と話し合い、統計学の知識を組み合わせてデータをどう測定し解析するのかを理論化して、実践するのが医療統計学です」と篠崎准教授。医療を支えるデータとしていちばん分かりやすい例が、治療法の安全性と効果を検証するために患者を対象として行う臨床試験だろう。この検証が適切なタイミングで行われないと、不毛な治療や害のある医療がはびこり、現在、ひいては患者の将来に多大な不利益を与えかねない。「きちんとした臨床試験には必ず、医療統計の専門家が計画段階からデータ解析責任者として入っています」と篠崎准教授が指摘するように、単なる数学・統計学の応用ではない、専門分野としての医療統計学の役割の大きさを窺い知ることができる。

実験的な介入を伴わない観察研究における「バイアス」との闘い。

篠崎准教授のもう一つの研究分野が疫学理論だ。人間の健康問題に対して、倫理的に臨床試験が難しい受動喫煙などの場合、実験的な介入を伴わない観察研究が行われる。疫学理論とは観察研究におけるバイアス、つまり知りたいものとデータから得られる数値とのずれを明らかにして、対処方法を考える分野だそうだ。「例えば、高血圧薬を飲んでいるグループとそうでないグループに分けて、その後の病気発症を比較するような研究です。でも高血圧薬を飲んでいる人たちは、元々血圧が高いから飲んでいたのかもしれない。すると、高血圧薬の有無を比較しているのか、それとも元々の血圧を比較しているのか、分からなくなってしまいます」と篠崎准教授。これは非常に単純化された交絡(こうらく)の例だそうだが、ほかにも観察研究には、実験環境では生じない人を対象としたデータならではの、さまざまなバイアスがあるという。

より豊かなデータ解析や問題の立て方を導く統計的因果推論。

観察研究で生じるバイアスに対処する手法として篠崎准教授が研究を続けているのが統計的因果推論である。因果推論とは、簡単に言うと現実と仮想現実(もし~だったら)を比較して、因果効果(原因が結果に及ぼす影響の強さ)を考えるための枠組みだ。篠崎准教授は言う「もしこの治療をしたらどうなるだろう、ということをデータからどこまで推論できるかを明らかにするということです」。これはデータ解析の方法だけでなく、医療データの見方を根本的に変える可能性があると篠崎准教授は期待する。「ある治療を始めた患者が、その治療後の途中経過に応じて、さらに次の治療を選択していく。そうした治療の流れの効果を定式化して推定することは、従来のデータ解析の研究では扱えなかったのですが、因果推論が道筋をつけました」。ビッグデータ時代を迎え、因果推論を基盤とした、より豊かなデータ解析や問題の立て方が可能になると篠崎准教授は考えているという。

工学部 情報工学科
篠崎智大准教授

■ 主な研究内容

専攻分野は、医療統計学。研究分野は、統計的因果推論、疫学理論、臨床試験の統計解析。医学・薬剤開発研究などを支えるデータ収集と解析の方法論に取り組み、医療進歩への貢献を目指している。

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