※内容は「東京理科大学報」 vol.193 から抜粋、一部改訂。

失敗したら何度でもチャレンジすればいい。
自分の目標に向けて、120%の力で挑んでほしい。

首都圏で保育事業を展開する起業家
社会福祉法人 どろんこ会理事長
1996年工学部第一部経営工学科卒業

安永 愛香さん

社会福祉法人 どろんこ会理事長
1996年工学部第一部経営工学科卒業
1974年神奈川県生まれ。96年東京理科大工学部第一部経営工学科卒業。シティコープ(現・シティバンク銀行株式会社)勤務を経て98年に起業し、駅前型保育所を開設。05年に日本福祉総合研究所を設立し、事業所内・病院内で保育所を運営。07年に社会福祉法人どろんこ会を設立し、初の認可保育所「朝霞どろんこ保育園」を開設。現在は3法人で70施設を運営。高校生と中学生の2児の母。

畑仕事や野外体験を取り入れた自然保育を実践する、
社会福祉法人どろんこ会理事長の安永愛香さん。

26歳で起業してから順調に事業を拡大し、現在は首都圏を中心に全国100カ所の子育て支援施設を運営。業界で注目を集める若手経営者の一人だ。
「高校生のころから起業に興味があって、“人の役に立つ仕事がしたい”と漠然と考えていました。経営工学科を選んだ理由は、経営系など幅広い分野が学べて将来に役立つと思ったから。当然ながら周りはSEや会計士を目指す人が多かったので、わたしはかなり異端でしたね(笑)」
 学生時代は「学業と両立」をモットーに時間を最大限有効に使った。アルバイトは常に3~4カ所を掛け持ちし、早朝から深夜まで寝る間を惜しんで奔走。夏休みにはバックパッカーとして諸外国を巡り、アメリカ縦断も果たした。3年次からは小学生向けに夜間の学習塾を始め、共同経営者だった同学科の先輩と学生結婚。
「毎日が充実していて塾講師の仕事にもやりがいを感じていましたが、しょせんは井の中の蛙。社会経験を積もうと思い就職活動に臨みました」
 しかし、当時は超氷河期。マスコミ、商社、メーカーなどあらゆる業種の総合職に片っ端からエントリーしたが内定が出たのはわずか数社。その中から実力本位の評価体系に惹かれて外資系銀行に入行するものの、ほどなく大きな転機が訪れる。

飼育している鶏の世話をする「どろんこ保育園」の子どもたち。

「長男を出産し、託児所を利用するようになったんです。でも、残業を終えて迎えにいくといつも一人ぽつんと座ってアニメのDVDを見ている。このままでいいのか、母親として不安でした」
 業界の体質にも疑問を感じた。保育士はどこか受け身で、与えられた仕事を淡々とこなしているように見えた。子どもの未来に危機感を覚えると同時に、保育業界を変えたいという強い意欲が一気に湧き上がる。居ても立ってもいられず、持ち前の行動力を発揮して開業準備に取りかかると、勤務先を退職して保育所をオープン。
「保育の知識も経験もないし周囲は大反対。今でこそ天職だと思いますが当時は必死でしたね」
 保育所を100カ所開設するという当初の目標の達成は目前。次は行政への政策提言や保育士教育に本腰を入れるという。
「保育所は子どもを預かるだけの場所ではありません。大切な人格形成期に必要な体験は何かを追求し、“育てる保育”の重要性を発信していきます」
 最後に、後輩たちへのメッセージをお願いした。
「学生時代は自分のやりたいことに没頭できる最高の時間。重ねた努力は自信となり、社会人になったあなたを力強く支えてくれると思います」